肥満・メタボのある人は「メンタルヘルス不調」のリスクが高い 早い段階で保健指導を提供 3つの方法で対策

2024年01月12日

 肥満やメタボリックシンドロームは、うつ病や不安症などのメンタルヘルス不調のリスクを高めているという調査結果が発表された。

 「肥満やメタボのある人に、早い段階で適切な保健指導を提供するとともに、メンタルヘルス対策についても考慮する必要があります」と、専門家は指摘している。

 うつ病のリスクを減らす効果の高い方法を開発するための研究が世界中で行われており、その成果が発表されている。

肥満やメタボはうつ病などのリスクを高める

 うつ病は、憂うつな気分や意欲の低下など心の症状や、食欲不振・過食・不眠・疲労などの身体的な症状が続いた状態。

 肥満やメタボは、生涯を通じてうつ病や不安症などの精神症状のリスクを高めることが、オーストリアのウィーン医科大学などの研究で明らかになった。

 肥満のある人では肥満のない人に比べ、うつ病が2.5倍、不安障害が2.1倍、気分障害が2.9倍、摂食障害が1.8倍、ニコチン使用障害が3.7倍、それぞれリスクが高いことが分かった。

 とくに女性では、肥満にともなうメンタルヘルス不調が多い傾向がみられ、肥満のある人のうつ病のリスクが男性で6.61%にみられたのに対し、女性では13.3%とほぼ2倍に上昇することが示された。

若い人や女性でもメンタルヘルス不調のリスクの高い人が

 「これまでも、肥満や糖尿病はメンタルヘルス不調と関連が深いことが報告されています。若い人や女性でもリスクの高い人がみられます」と、同大学で医療データサイエンスを研究しているエルマ ダーヴィック氏は言う。

 「肥満やメタボのある人に、早い段階で適切な保健指導を提供するとともに、メンタルヘルス対策についても考慮する必要があります」としている。

 なお、肥満と併発することが多い疾患は、2型糖尿病(24%)、脂質異常症(35%)、高血圧(59%)など、メタボリックシンドロームと関連する疾患だった。

 研究グループは、オーストリアの1997年〜2014年の約900万人の患者の約4,500万件の入院を含む電子医療記録(EHR)を解析した。肥満のない人300万6,526人と、肥満のある人16万1,185人を比較した。


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うつ病リスクを減らす3つの方法

 うつ病などのメンタルヘルス不調のリスクを減らす効果の高い方法を開発するための研究が世界中で行われており、その成果が発表されている。


ウォーキングなどの運動でうつ病リスクを減らす

 ウォーキングなどの適度な運動を毎日行うことで、うつ病のリスクを低減できることが、アイルランドのリムリック大学の研究で明らかになった。

 研究グループは、4,016人の高齢者を10年間追跡して調査するコホート研究を実施。その結果、1日わずか20分の活発な運動を週5日行うことで、うつ病のリスクを大幅に減らせることが分かった。

 早歩きに相当する運動を1日20分、週5日間行っている高齢者は、運動をしていない高齢者に比べ、うつ病のリスクが43%低かった。

 「これまで運動を行う習慣のなかった人でも、ウォーキングなどの運動を少しはじめただけで、うつ病に対する改善効果が示された例もあります」と、同大学体育・スポーツ科学部のイーモン レアード氏は述べている。

 「楽しんで取り組める活動や趣味をみつけて、日課に組み込むことをお勧めします。とくにグループで行う運動など、体を動かしながら社会交流もできるものは、メンタルヘルスを高める効果を期待できます」としている。


「ホットヨガ」でうつ病を予防・改善

 呼吸を取り入れたストレッチやヨガが、うつ病の症状を軽減するのに効果的という研究を、米国のマサチューセッツ総合病院が発表した。

 とくに体を温めながら行う「ホットヨガ」は効果が高いという。

 研究グループは、中等度から重度のうつ病のある成人80人を対象に、8週間のランダム化比較試験を実施。

 その結果、90分間のホットヨガの教室に週に1回以上参加した人は、60%近くがうつ病の症状が50%以上軽減された。ホットヨガの教室に参加しなかった人は、症状はあまり変らなかった。

 「ホットヨガは、うつ病の人の治療として効果的である可能性が示されました。薬物を使用しないアプローチであり、比較的取り組みやすい身体活動と言えます」と、同病院のうつ病床研究プログラムのディレクターであるマレン ナイアー氏は述べている。


「スマホアプリ」を上手に活用

 うつ病を予防・改善するためのスマホアプリも開発されている。うつ病のある人向けのアプリの利用が、その症状を軽減するのに役立つという研究を、スペインのカタルーニャ オベルタ大学が発表した。

 「うつ病の人は世界的に増えていて、スペインでもうつ病の有病率は5.2%と推定されています。とくに新型コロナのパンデミックを受けて、メンタルヘルスの障害は大幅に増加している兆候がみられます」と、同大学eヘルス研究所のカルメ カリオン教授は言う。

 研究グループは、うつ病患者向けに開発されたスマホアプリによる介入の有効性を検証した29件の研究を解析した。その結果、そうしたアプリを利用することが、うつ病の症状の軽減に有意な効果を示すことが明らかになった。

 うつ病の治療を支援するスマホアプリとして、認知行動療法をサポートするものが出ている。いつでもどこでも、人と会話しているような双方向的なやりとりをすることで、レジリエンス(ストレスを乗り越え回復する力)を向上することを狙ったものが出ている。

 認知行動療法は、ものの考え方や受け取り方などの認知のあり方が、気分や行動に影響しているので、その認知の偏りを修正し、問題解決を手助けするという精神療法で、うつ病の症状改善に役立つことが知られている。

 カリオン教授らは、うつ病の分野で使用されているアプリを評価する手段を設計するために、「EvalDepApps プロジェクト」を立ち上げた。

 「メンタルヘルスケアのためのアプリは増えており、世界で約1万件が開発されていると推定していますが、科学的証拠にもとづくものはまだ少数です。しかし、医療従事者による治療とテクノロジーを組み合わせたハイブリッド治療が、今後は増えていくでしょう」としている。

Obesity Increases Risk Of Mental Disorders Throughout Life (コンプレクシティ サイエンス ハブ ウィーン 2023年5月30日)
Obesity as pleiotropic risk state for metabolic and mental health throughout life (Translational Psychiatry 2023年5月30日)
UL research reveals that lower levels of physical activity can protect against depression among older adults (リムリック大学 2023年7月11日)
Physical Activity Dose and Depression in a Cohort of Older Adults in The Irish Longitudinal Study on Ageing (JAMA Network Open 2023年7月10日)
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A Randomized Controlled Trial of Community-Delivered Heated Hatha Yoga for Moderate-to-Severe Depression (Journal of Clinical Psychiatry 2023年10月23日)
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Efficacy, Safety, and Evaluation Criteria of mHealth Interventions for Depression: Systematic Review (JMIR Ment Health 2023年3月2日)
こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト (厚生労働省)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所