働いている人のパフォーマンス低下への影響が強いのは[睡眠不足・運動不足・就寝前の夕食] 企業従業員1.2万人超の特定健診データを調査
働いている人のパフォーマンス低下にもっとも強く影響しているのは、男女ともに「睡眠による休息の不足」であることが、日本の企業従業員1万2,476人を対象に、特定健診と診療報酬明細書のデータを解析した調査で明らかになった。
次いで影響が大きいのは、「運動不足」と、「就寝前の夕食摂取」であることも分かった。生活習慣の影響は、女性よりも男性の方が大きい傾向も示された。
「企業従業員の労働パフォーマンス改善に向けた生活習慣の改善の取り組みとして、睡眠の改善、運動習慣の定着、適切な時間の夕食摂取などの指導や職場環境の整備が重要です。また、性差をふまえた支援・対策を検討することも望まれます」と、研究者は述べている。
日本では、超少子高齢化の進行によって生産年齢人口は減少し、労働力の減少や生産性の低下が大きな課題となっている。
企業では、労働者の健康保持を通して労働パフォーマンスの改善を図る「健康経営」の一環として、喫煙・運動・食事などの生活習慣を改善する取り組みが行われている。
しかし、実際にどのような生活習慣が労働パフォーマンスを高めるのか、またそれらに性差があるのかについては、十分に明らかにされていない。
そこで、筑波大学の研究グループは、2016年の日本の企業の従業員(21〜69歳)の特定健康診査と診療報酬明細書のデータおよび労働パフォーマンスの調査データを用い、1万2,476人分について、生活習慣(喫煙・運動・食事・飲酒・睡眠など11項目)と労働パフォーマンスとの関係を性別に分析した。
その結果、男女ともに「睡眠による休息の不足」がもっとも強く労働パフォーマンスの低下に関係し、次いで運動習慣の欠如、就寝前の夕食が関係することが分かった。
さらに男性では、「歩行速度が遅いこと」「喫煙」「朝食の欠食」が、女性では「食べる速度が速いこと」が、それぞれ労働パフォーマンスの低下と関係しており、男性の方がより多くの生活習慣が労働パフォーマンスと関係することも分かった
研究は、筑波大学大体育系の武田文教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Public Health」に掲載された。
重回帰分析により労働パフォーマンスと関係がみられた生活習慣
βのマイナス絶対値が大きいほど労働パフォーマンスが低い
研究グループは今回、生活習慣については、特定健康診査の標準的な質問票のデータから、生活習慣11項目[喫煙・運動習慣・身体活動・歩行速度・就寝前の夕食・夕食後の間食・朝食の欠食・食べる速度・飲酒頻度・1日当たりの飲酒量・睡眠による休息]について調査した。
労働パフォーマンスについては、出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下を表す「プレゼンティーズム」の指標である「世界保健機関健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版」(WHO-HPQ)の調査データから、HPQ得点を算出した。
生活習慣について具体的には、男性では、▼睡眠による休息の不足(β=-0.108)、▼運動習慣の欠如(β=-0.052)、▼歩行速度(β=-0.051)、▼喫煙(β=-0.035)、▼就寝前の夕食(β=-0.031)、▼朝食の欠食(β=-0.030)が、それぞれHPQ得点と関連していた。
女性では、▼睡眠による休息の不足(β=-0.076)、▼就寝前の夕食(β=-0.053)、▼食べる速度(β=-0.032)、▼運動習慣の欠如(β=-0.028)が、それぞれHPQ得点と関連していた。
関連情報
また、受療状況について、診療報酬明細書のデータから、高血圧・糖尿病・脂質異常症・悪性新生物・筋骨格系疾患・精神疾患・歯科疾患に関して治療・処置・薬剤投与いずれかの有無を基に受療を判定した。
男女別に、HPQ得点を目的変数、生活習慣11項目を説明変数(基準カテゴリ:良好な生活習慣)、属性(年齢、職種、役職)および受療状況を調整変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。
「企業従業員の労働パフォーマンス改善に向けた生活習慣の改善の取り組みとして、睡眠の改善、運動習慣の定着、適切な時間の夕食摂取などの指導や職場環境の整備が重要です。また、性差をふまえた支援・対策を検討することも望まれます」と、研究者は述べている。
筑波大学体育系 武田 文 研究室
Relationships between lifestyle habits and presenteeism among Japanese employees (Journal of Public Health 2023年11月9日)