認知症・フレイル予防のための複合的な「認知症予防プログラム」を開発 高齢者の認知機能を改善 長寿医療研究センターなど

2023年11月22日

 認知症発症の危険因子として、糖尿病・高血圧・肥満などが知られている。運動や食事などの生活スタイルを改善して、これらの疾患を治療することが重要だが、それらに認知トレーニングを加えると、より効果的な認知症対策になると考えられている。

 日本の高齢者を対象に、▼生活習慣病管理、▼運動指導、▼栄養指導、▼認知トレーニングの4つで構成された、複合的な認知症予防プログラムを提供すると、認知機能の低下を抑制する効果をえられることが、国立長寿医療研究センターなどによる研究ではじめて明らかになった。

 この多因子介入プログラムに継続して参加することで、高齢者の認知機能はより改善し、フレイル予防の効果もえられることが示された。

認知トレーニングを取り入れた多因子介入により認知機能の低下を抑制

 高齢化とともに認知症の人の数は増加しており、認知症は要介護にいたる原因の第1位となっている。認知症対策は、喫緊の課題になっている。

 日本では認知症に対する政策として、2015年に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜」が策定され、2019年には「認知症施策推進大綱」がとりまとめられた。

 認知症発症の危険因子として、糖尿病・高血圧・肥満などが知られている。運動や食事などの生活スタイルを改善して、これらの疾患を治療することが重要だが、それらに加えて、欧州で実施された「FINGER研究」などでは、認知トレーニングも取り入れた多因子介入により、認知機能の低下のスピードがゆるやかになることが示されている。

 そこで国立長寿医療研究センターなどの研究グループは今回、▼生活習慣病の管理、▼運動指導、▼栄養指導、▼認知トレーニングから構成される多因子介入プログラムによって、高齢者の認知機能低下を抑制できるかを検討した。

65歳〜85歳の軽度認知障害を有する高齢者を対象に試験を実施

 研究グループは今回、65歳〜85歳の軽度認知障害を有する高齢者531人を対象に、18ヵ月間のランダム化比較試験を実施。

 多因子介入プログラムを受けるグループ(介入群)には、「リストバンド型活動量計」「セルフモニタリング用のファイル」「タブレットPC」を配布し、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の管理、週に1回の頻度の運動教室(1回90分、全78回)、栄養に関する面談と電話相談(全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニング(BrainHQ)を提供した。

 多因子介入プログラムを受けないグループ(対照群)には、生活習慣病の管理と2ヵ月に1回の頻度の健康情報のみを提供した。

J-MINT研究の概要

出典:国立長寿医療研究センター、2023年

継続して参加した高齢者は認知機能がより改善 フレイル予防の効果も

 その結果、介入群と対照群の、18ヵ月間の認知機能の変化を比較したところ、主要評価項目である認知機能のコンポジットスコア(総合評価)では、統計学的な有意差は認められなかった。

 しかし、アルツハイマー病の危険因子として知られているアポリポタンパクE遺伝子のE4多型の保因者に絞って検討したところ、介入群では認知機能が維持され、18ヵ月間の認知機能の変化に統計学的な有意な差が認められた。アポリポタンパクEは、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの蓄積や凝集に関わっている。

アポリポタンパクE遺伝子のE4多型を保因している高齢者では
多因子介入プログラムにより認知機能が維持された

出典:国立長寿医療研究センター、2023年

 J-MINT研究は、新型コロナの影響を受け、一時は対象者の募集や評価、介入プログラムの提供を中断せざるをえない状況になった。また、身体疾患などさまざまな理由で運動教室に参加できなかった高齢者もいた。

 そこで研究グループは、介入群を全78回の運動教室の70%以上に参加したグループと、70%未満のグループにわけて、認知機能の変化を比較した。

 その結果、運動教室に70%以上参加していたグループでは、70%未満のグループ、対照群と比較して、認知機能が改善していたことが示された。

 そのほかにも、70%以上参加していたグループは、対照群と比較して、食物多様性・血圧・BMI、身体組成(脂肪量、筋肉量)・運動機能(歩行速度、5回椅子立ち座り時間)などの改善が認められ、身体的フレイルの割合も、70%以上参加したグループでは1%、対照群では8%と、減少していることが示された。

運動教室に70%以上参加していた高齢者では認知機能が改善



出典:国立長寿医療研究センター、2023年

複合的介入による認知機能障害の抑制を検証

 J-MINT研究は、認知症リスクをもつ高齢者500人を対象に実施されている、複合的介入により認知機能障害の進行を抑制できるかを検証している多因子介入(オープンラベルランダム化比較試験)研究。

 研究は、▼生活習慣病管理、▼運動指導、▼栄養指導、▼認知トレーニングの4つで構成され、複合的な認知症予防プログラムを提供している。

 J-MINT研究は、2019年に国立長寿医療研究センターを中心に開始され、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センターなどが協力し、多施設共同研究として実施されている。

 企業との連携した研究も進めており、研究でえられた成果を今後、社会に還元していきたいとしている。

 今回の研究は、国立長寿医療研究センターが、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センター、SOMPOホールディングスと共同で実施したもの研究成果は、2023年7月にアムステルダムで開催された国際アルツハイマー病学会(AAIC2023)で発表された。

民間企業とも連携し新たなサービスを創出

 「本研究は、日本で初めて多因子介入プログラムの認知機能低下の抑制効果を検証し、アポリポタンバクE遺伝子のE4多型の保因者における認知機能低下抑制効果を示しただけではなく、継続して多因子介入プログラムに参加することで認知機能が改善すること、そしてフレイル予防にも効果があることを示しました」と、研究者は述べている。

 「研究成果は、日本の認知症発症を減少させる大きな第一歩となることが期待されます」としている。

 今後は、4年間の研究による複合的認知症予防プログラムの効果を明らかにするとともに、民間企業と連携して研究を行い新たなサービスを創出し、さらに既存事業が認知症予防サービスとして適正かどうかの認証基準の作成、理想的なサービスの利用マニュアルの作成などにも取り組み、幅広く展開できる認知症予防サービスの構築を目指すとしている。

認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究「J-MINT研究」(国立長寿医療研究センター)
国際アルツハイマー病学会 (AAIC)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所