ウォーキングなどの運動で高齢化に対する不安を軽減 座ったままの生活は憂鬱や不安を強める コロナ禍で深刻に

2023年11月17日

 ウォーキングや筋トレなどの運動や身体活動に前向きに取り組んでいる人は、老化にともなう不安が軽減され、加齢にともなう生活や身体の変化を肯定的にとらえている傾向があることが明らかになった。

 40歳以上の人が運動に取り組むことは、心身ともに老後に備えるために必要で、健康的な行動を促進することにつながるとしている。

運動に前向きに取り組んでいる人は老化に対する不安が少ない

 ウォーキングや筋トレなどの運動や身体活動に前向きに取り組んでいる人は、老化にともなう不安が軽減され、加齢にともなう生活や身体の変化を肯定的にとらえている傾向があることが、アイオワ州立大学の研究で明らかになった。

 「米国では毎日約1万人が65歳という年齢を迎えており、高齢化が進行しています。高齢化を迎えた人々の健康行動をより良くサポートすることは、高血圧や糖尿病などの慢性疾患への対策と同様に重要と言えます」と、同大学食品科学・人間栄養学部のサラ フランシス教授は言う。

 加齢にともない不安が増す背景に、自立した生活ができなくなるのではないかという将来への不安や、親密な人間関係を失うことへの恐怖、加齢にともなう身体的や心理的な変化、他の高齢者といっしょにいたきに感じた不快感、楽しみがなくなることへの懸念など、さまざまなことがある。

 「過去の研究でも、自分の老後に対して強い不安を抱いていると、それだけでも健康状態が悪化しやすいことが示されています」と、フランシス教授は指摘する。

 「しかし運動をすることで、高年期をライフステージとして肯定的に捉えられるようになり、健康状態が良くなる傾向がみられます。長期的には、自分にとって有益と思われる生活スタイルの変化を選ぶために、主体的に行動を起こせるようになる可能性があります」としている。

加齢にともなう不安で大きいのは喪失への恐怖

 研究グループは今回、加齢にともなう不安が、年齢・性別・婚姻状況・収入・身体活動などの要因とどのように関連しているかを調べるため、142項目の質問で構成されるオンライン調査を設計し、米国の6州に在住する計1,250人の40歳以上の成人に回答してもらった。

 その結果、加齢にともない増える不安で大きいのは、喪失への恐怖であり、とくに低所得者や単身者で影響が大きいことが示された。

 たとえば、40〜49歳の女性は、男性や上の年齢層の人に比べて、自分の外見の変化に対して不満を抱きやすいことや、白人では運動や身体活動、とくに筋力を強化する運動に対して消極的な人がいることなどが示された。

 さらに、運動や身体活動に対する積極性が高い人ほど、老化に対する不安が低いことも明らかになった。

運動を行うことで老化のプロセスを受容できるようになる

 「体を活発に動かす活動的な生活スタイルは、身体・精神的・社会のいずれにおいても、全体的な幸福を高める恩恵をもたらすことが示されました」と、フランシス教授は言う。

 「運動や身体活動を積極的に行うことで、老化のプロセスをより好意的に認識できるようになり、最終的には加齢に関連する不安を軽減できる可能性があります」としている。

 ウォーキングなどの有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングも、高齢者の骨と筋肉の維持や、認知症リスクの軽減、体のバランス能力の維持に役立つことも分かった。

 「研究成果は、運動や身体活動に参加することでえられる健康上のベネフィットについて解明し、老化にともなう不安を制御するための、新たな教育ワークショップなどを開発するのに役立つ可能性があります」としている。

 「運動へのアクセスのしやすさや、運動を行いやすい環境の整備、家庭で行える運動の開発、タンパク質の摂取などの食事での効果的なアドバイスや教育など、高齢化に合わせたアプローチが必要とされています」

座ったまま過ごす時間の長い生活は憂鬱や不安を強める

コロナ禍で多くの人が座位時間が長くなった

 アイオワ州立大学が発表した過去の研究では、座ったまま過ごす時間の長い、運動不足の生活スタイルは、憂鬱感や不安感を強めることと関連していることが示されている。

 2020年にはじまった新型コロナのパンデミックにより、多くの人が自宅待機を求められたり、自己隔離が強いられた。その結果、座ったまま過ごす時間が長くなった人が多い。

 その結果、運動不足になるとともに、憂鬱や不安、孤独を感じることが増え、うつ病の症状を示す人が増えていたことが明らかになった。

 「新型コロナの拡大は、私たちの生活に多くの変化をもたらしました。とくに座位時間の長い生活スタイルは、心身に悪い影響をもたらします」と、同大学ウェルビーイング・運動研究室のジェイコブ マイヤー所長は言う。

低強度でもいいので身体活動に置き換えることが大切

 研究グループは、全米の50州などに在住している3,000人超に協力してもらい、新型コロナの前後で生活スタイルがどのように変化したかや、うつ病・不安・ストレス・孤独感などの精神的健康にどのような変化が起きたかを長期調査した。

 米国の運動ガイドラインでは、週に150〜300分の中強度の有酸素運動、もしくは75〜150分の高強度の有酸素運動、あるいるはそれらを組み合わせて同等の身体活動を行うことが推奨されている。

 また、座位行動は、低強度でもいいので、なるべく身体活動に置き換えることが勧められている。

 しかし調査では、パンデミック前には運動ガイドラインの推奨量を実行していた人も、パンデミックがはじまった直後には、身体活動量が平均して32%減少したことが示された。

 さらには、運動不足になるとともに、憂鬱や不安、孤独を感じることが増えたことも分かった。

少しでも体を動かして気分やメンタルヘルスを改善

 「その後、パンデミック下の生活に適応し、運動する習慣を次第に取り戻した人は、多くはメンタルヘルスが改善したことが分かりました。しかし、座ったまま過ごす時間が長いままだった人は、抑うつ症状が回復しませんでした」と、マイヤー所長は指摘する。

 ただし、座位時間が増えることでうつ病が増えるのか、うつ病になることで座位時間が増えるのかは不明であり、他の特定できていない要因が影響している可能性も考えられるという。

 「新型コロナのパンデミックのような世界的な危機は、今後も起こる可能性があります。少しでも体を動かすことで、気分やメンタルヘルスを改善できることを、より多くの人に理解してもらい、毎日の生活に運動や身体活動を取り入れてもらうことが大切です」としている。

Outlook on exercise may curb aging anxiety (アイオワ州立大学 2023年10月31日)
Aging Anxiety and Physical Activity Outcomes among Middle and Older Age African Americans (Physical Activity and Health 2023年10月2日)
Sitting more linked to increased feelings of depression, anxiety (アイオワ州立大学 2021年11月8日)
High Sitting Time Is a Behavioral Risk Factor for Blunted Improvement in Depression Across 8 Weeks of the COVID-19 Pandemic in April-May 2020 (Frontiers in Psychiatry 2021年10月1日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所