1日に数分のウォーキングでうつ病リスクを減少 運動がメンタルを健康に 社会的交流も活発に

2023年08月04日

 活発なウォーキングなどの運動を、1日にわずか20分だけでも、週5日行うと、うつ病のリスクを減らせることが、平均年齢が61歳の男女4,016人を10年間追跡した研究で明らかになった。

 うつ病は50歳以上の人でよくみられる疾患で、とくに高齢者ではリスクが高い。

 「運動ガイドラインで勧められているよりも少ない運動量でも、うつ病を防ぐ効果をえられることが分かりました」と、研究者は述べている。

 「運動や身体活動は、社会的交流を活発にするのにも役立ちます。他の人といっしょに運動をして交流することも、ベネフィットをもたらします」としている。

1日にわずか20分の運動でうつ病リスクを減らせる

 活発なウォーキングなどの運動を、1日にわずか20分だけでも、週5日行うと、うつ病やうつ症状のリスクを減少できることが、アイルランドのリムリック大学とトリニティ カレッジの研究で明らかになった。

 うつ病は50歳以上の人でよくみられる疾患で、とくに高齢者ではリスクが高い。年齢を重ねると、環境の変化に加え、加齢にともなう衰えや病気なども増え、うつ病になりやすいと考えられている。

 また、50歳以上の人に多い糖尿病・脳卒中・がん・認知症などの病気は、うつ病を併発しやすく、また、うつ病の発症をきっかけに、そうした病気が悪化することも少なくない。

 うつ病が、認知機能の低下・心血管疾患・慢性疼痛などに対する深刻な危険因子となり、死亡や自殺のリスクを高めているという報告もある。

 「うつ病は、欧州ですべての病気の医療負担の5〜10%以上に関わり、経済的な損失は米国だけでも29兆円(2,105億ドル)を超えると推定されています」と、リムリック大学体育・スポーツ科学部のイーモン レアード氏は言う。

 「うつ病のリスクを軽減するために、生活スタイルや健康を高める介入を行うなど、簡便で低コストの対策をみつけることが、優先される課題となっています」としている。

1日に20分・週5日の早歩きでうつ病リスクが16%減少

 研究グループは、アイルランドの高齢者を対象に実施されているコホート研究「アイルランド老化縦断研究」に参加した平均年齢が61歳の男女4,016人を10年間追跡したデータを解析した。

 その結果、「中強度から高強度の活発な運動(MVPA)」を行うことが、うつ病を予防・改善するのに役立つことが明らかになった。

 散歩くらいのゆっくりとした歩行は「低強度」で、MVPAはそれよりも強度を高めた運動。ゆっくりとしたウォーキングから少し速度を上げるとMVPAになる。呼吸が速くなり、心拍数が上がり、うっすら汗ばむくらいの運動だ。

 早歩きは代表的なMVPA。研究では、早歩きに相当する身体活動を、1日に20分、週5日行っている高齢者は、うつ病のリスクが16%減少し、大うつ病は43%減少することが明らかになった。

 さらに、運動習慣とうつ病の予防には用量反応的な関連があり、MVPAを多く行っている高齢者ほど、うつ病から保護されている傾向がみられた。

 糖尿病などの慢性疾患のある高齢者でも、そうした疾患のない高齢者でも、やはり運動がうつ病の予防・改善に有用であることが示された。

楽しみながら取り組める活動をみつけることが大切

 「世界保健機関は運動ガイドラインで、中高強度の運動を週に150分以上行うことを勧めていますが、実際にはそれよりも少ない運動量で、うつ病を防ぐ効果がえられることが分かりました」と、レアード氏は言う。

 「活発なウォーキングなどの中高強度の運動を、1日20分以上週に5日行うことをお勧めします。世界的に高齢者の人口が増え、うつ病を発症する高齢者はさらに増えるとみられており、このことは重要です」としている。

 ウォーキングは、やや速歩で行うことが必要だという。高齢者の歩く速さと10年後の生存率を調べた研究で、歩くのが速い人は長く生きられることが示されている。

 歩くことは、筋肉量を維持するためにも必要だ。ウォーキングの歩数を1日に6,000〜8,000歩以上に増やすと、筋肉量の維持や増強につながることも分かっている。

 「運動量を増やすと、より高い健康効果を期待できますが、まずは運動を楽しみながら安全に行うことが大切です。楽しみながら取り組める趣味や活動をみつけ、日課に組み込んでみてください」と、レアード氏は指摘する。

運動により社会的交流も活発に 精神衛生上のベネフィットが

 さまざまな理由で、運動に取り組めないという高齢者も多いが、健康維持のために推奨される運動量を下回っている場合でも、身体活動に参加することにより、うつ病に対する保護効果を大きく改善できる可能性がある。

 「運動や身体活動は、社会的交流を活発にするのにも役立ちます。他の人といっしょに運動をして交流することも、精神衛生上のベネフィットをもたらします」と、同大学健康・身体活動研究センターのマシュー ヘリング氏は言う。

 さらに、食事などの健康的な生活スタイルの促進に、運動や社会的交流を加えることが、付加的な利点をもたらすことにも注目するべきだとしている。

 「抗うつ薬などの薬物療法だけでは十分な治療成果をえられない患者さんでは、身体活動量が低いことが関連している可能性があります。うつ病の治療をしていても改善しないという患者さんは、運動を取り入れることを試すべきです」としている。

 研究はアイルランド保健研究委員会の資金提供を受けて行われたもの。研究成果は、「Jama Network Open」に掲載された。

UL research reveals that lower levels of physical activity can protect against depression among older adults (リムリック大学 2023年7月11日)
Physical Activity Dose and Depression in a Cohort of Older Adults in The Irish Longitudinal Study on Ageing (Jama Network Open 2023年7月10日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所