【新型コロナ】歩数計を活用すれば高齢者の運動量は減らない 緊急事態宣言中も歩数や中高強度活動は増加
新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言の発出により、高齢者の身体活動量の低下が課題になっているなか、身体活動を定期的にセルフモニタリングしている高齢者では、身体活動量は低下しなかったことが、1,773人の高齢者を2020年2月〜2021年7月に継続して調査した研究で明らかになった。
歩数計や活動量計で毎日の歩数を測るなど、身体活動をセルフモニタリングすることで、運動量を増やせるという報告もある。
毎日の歩数を測るなどして、自分でチェックすることが、アフターコロナでの高齢者の身体活動の低下を減らすのに役立つ可能性がある。
研究は、長崎大学情報データ科学部の高橋将宜准教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の千葉一平助教が、国立長寿医療研究センター予防老年学研究部との共同で実施したもの。研究成果は、「BMC Public Health (Springer Nature)」に掲載された。
研究グループは今回、国立長寿医療研究センターと花王が共同で愛知県高浜市で実施している「NCGG-SGS」研究の、身体活動測定プログラムのデータを解析した。
プログラムでは、高齢者向けの機能健診を2015年〜2017年に実施。参加者に、花王が開発した高感度活動量計(HW)である「HW-100」を配布し、日常の身体活動量を計測してもらった。
調査の対象となったのは、参加者のうち2020年2月〜2021年7月に継続して身体活動測定を実施した1,773人(2020年2月1日の年齢は74.6±6.3歳、女性53.9%)。
参加者は、身体活動を継続的に測定し、公共施設等に設置された端末で、研究機関へデータを定期的に送信、さらに活動状況レポートの出力(本人への結果回付)を行った。
齢者の身体活動の強度により、「中高強度身体活動時間(MVPA)」と「低強度身体活動時間(LPA)」に分類し、3.0メッツ以上の身体活動をMVPAと、1.6〜2.9メッツの身体活動をLPAと判定した。
3.0メッツの身体活動量は、散歩や買い物などの普通歩行、屋内の掃除、荷物の積み下ろし、階段を下りる、子供の世話などが相当する。
その結果、緊急事態宣言下であっても、身体活動を定期的にセルフモニタリングしている高齢者のあいだでは、身体活動量が低下していなかったことが示された。
むしろ、身体活動量計を活用することで、活発な身体活動を示すMVPAや歩数は増えている傾向もみられた。
1回目の緊急事態宣言の期間開始後に、歩数(964.3 歩/日)、LPA(5.5 分/日)、MVPA(4.9 分/日)の有意な上昇がみられた(いずれもバンド幅14日間)。
2回目で、バンド幅を14日間にすると、歩数はマイナス609.7歩/日、LPAはマイナス4.6分/日、MVPAはマイナス2.8分/日となり、それぞれ有意な下降がみられた。
バンド幅56日間にすると、歩数はプラス143.8歩/日、MVPAはプラス1.3分/日になり、それぞれ有意な上昇がみられた。
3回目では、LPAはすべてのバンド幅に対して、マイナス2.1分/日、マイナス3.0分/日、マイナス0.8分/日となり、一貫して有意に低下がみられた。
一方、バンド幅を28日にすると、歩数はマイナス529歩/日)、MVPAはマイナス2.6分/日となり、有意な低下がみられた。性別、2020年2月の身体活動量、年齢(75歳以上/未満)で層化した分析でも、同様の傾向が示された。
「緊急事態宣言下であっても、身体活動を定期的にセルフモニタリングしている高齢者のあいだでは、身体活動量が低下していなかったという、非常に興味深い結果がえられました」と、研究グループでは述べている。
「高齢者の身体活動量の低下を防ぎ、活動量を増やすために、身体活動量を計測する活動量計を上手に利用するのは効果的である可能性があります」としている。
研究グループは今回、回帰不連続デザインを用いて、観察期間中3回発出(2020年4月7日、2021年1月8日、5月25日開始)された緊急事態宣言にともなう身体活動量(歩数、低強度身体活動時間[LPA : 1.6〜2.9METs]、中高強度身体活動時間[MVPA : 3.0METs以上])の低下について検討した。
回帰不連続デザインのバンド幅は、宣言開始前後14、28、56日間とした。欠測値は多重代入法を用いて処理した。
長崎大学情報データ科学部
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
Association between COVID-19 emergency declarations and physical activity among community-dwelling older adults enrolled in a physical activity measurement program: Evidence from a retrospective observational study using the regression discontinuity design (BMC Public Health (Springer Nature) 2023年5月30日)
<歩行モニタリング技術>日常歩行モニタリングのさらなる進化−認知機能低下の推定や歩行安定性の評価へ応用できる可能性− (花王 2022年06月21日)