「良い睡眠」に心臓病・脳卒中・脂肪肝の予防効果 「運動」で睡眠を改善 とくに女性で高い効果

2023年03月07日
 座ったまま過ごす時間が長い生活スタイルや、良い睡眠をとれていない人は、脂肪肝になる可能性も高いことが報告された。

 睡眠を改善することで、10人に7人が、心臓病や脳卒中などの心血管疾患を予防できる可能性があるという研究も発表されている。

 睡眠を改善するために、どのようなことをすると良いのだろう? 睡眠を改善するためのヒントとなる研究が、日本で発表された。

 日常生活で、座ったまま過ごす時間を減らして、中程度から高強度の運動や身体活動を増やすと、とくに中年女性で睡眠の質の改善につながりやすいという。

睡眠の悩みを抱えている人は多い
 睡眠障害で悩んでいる人は、日本を含め世界中で多い。とくにコロナ禍でストレスを感じる人が増えており、睡眠の悩みは増えている。

 厚生労働省が発表した2021年度「健康実態調査結果の報告」によると、日本人の8割は、睡眠について何らかの悩みを抱えている。

 調査では、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と答えた人が47%、「日中、眠気を感じた」が37%、「睡眠全体の質に満足できなかった」が35%にそれぞれ上った

 睡眠障害は、身体・精神の健康に悪影響を及ぼし、免疫力も低下させる。睡眠の質を改善する方法を開発することは、公衆衛生上の大きな課題となっている。

睡眠を改善すると脂肪肝リスクを減らせる
 米国内分泌学会が発表した研究によると、座ったまま過ごす時間が長い生活スタイルや、良い睡眠をとれていない人は、脂肪肝になる可能性も高い。

 肥満や2型糖尿病などの代謝疾患があり、これに睡眠障害が加わると、脂肪肝のリスクはさらに上昇する。

 研究では、睡眠の質を改善すると、脂肪肝のリスクを29%減少できる可能性があることが示された。

 中国の広東省食品・栄養・健康重点研究所などは、脂肪肝疾患をもつ5,011人の中国の成人を対象に、睡眠や就寝の時間や、睡眠の質について調査した。

 「睡眠の質を適度に改善しただけでも、脂肪肝のリスクを軽減できることが示されました。とくに不健康な生活スタイルをもつ人では、良い睡眠をとることは重要です」と、同研究所のヤン リュー氏は言う。

 「睡眠の質が低下し悩んでいる人の大部分は、十分な対策をしておらず、治療も受けられていません。睡眠の質を改善するための戦略が求められています」としている。

睡眠を改善すると心臓病や脳卒中を予防できる
 睡眠を改善することで、心臓病や脳卒中を72%予防できる可能性があるという別の研究が、欧州心臓病学会(ESC)学術集会で発表されている。

 研究グループは、観察コミュニティベースの前向きコホート研究である「パリ前向き研究III(PPP3)」に参加した50歳〜75歳の男女7,200人を対象に、8年間追跡して調査した。

 その結果、心臓病や脳卒中などの心血管疾患の発症がもっとも少なかったのは、▼1晩に7〜8時間の睡眠をとり、▼不眠症になることはあまりなく、▼日中に過剰な眠気を感じることが少なく、▼睡眠時無呼吸がなく、▼生活パターンは朝型という人だった。

 睡眠スコアがもっとも良かった人は、もっとも悪かった人に比べ、心血管疾患のリスクが75%減少した。睡眠スコアが1ポイント上昇するごとに、心臓病と脳卒中のリスクが22%減少することが示された。

 調査では、睡眠の悩みのある人は10人に9人にも上った。睡眠を改善することで、10人に7人が、こうした心血管疾患を予防できる可能性があるという。

 「心臓や脳の健康のために、質の良い睡眠を十分にとることが重要です。睡眠の悩みのある人は、夜間の騒音を避けたり、仕事によるストレスに対策する、かかりつけの医師に相談するなどして、睡眠を改善する工夫をすることをお勧めします」と、フランス国立保健医療研究所(INSERM)のアブーバカリ ナンビエマ氏は述べている。

睡眠を改善するためのヒント
運動をすれば睡眠を改善できる とくに女性で高効果
 それでは、睡眠を改善するために、どのようなことをすると良いのだろう? 睡眠を改善するためのヒントとなる研究が、日本で発表された。

 日常生活で、座ったままの時間や軽い強度の身体活動を減らして、中程度から高強度の運動や身体活動を増やすと、とくに中年女性で、睡眠の質の改善につながることを、北陸先端科学技術大学院大学などが明らかにした。

 日常生活にスポーツや運動などを取り入れ、生活スタイルを活動的にすることが、睡眠障害の予防につながるとしている。

 研究グループは、東京都江東区と愛媛県松山市にそれぞれに在住する40〜64歳の成人683人を対象に研究を行った。対象者の睡眠の質を調査票で調べ、活動量計を用いて座位行動や身体活動についても、7日間測定した。

 その結果、座位行動や低強度の身体活動を1日に60分減らして、その代わりに、中高強度の身体活動を60分増やすと、とくに日本人中年女性の睡眠の質を改善できることが示された。

活動的な生活スタイルは睡眠の改善にも効果的
 「睡眠の質を改善するためには、日常生活でスポーツや運動などの、中程度から高い強度の身体活動の時間を増やしていくことが重要であることが示唆されました」と、研究者は述べている。

 「日本人中年者の睡眠障害の予防に向けて、活動的な生活スタイルを構築していくことが重要であると考えられます。また、今後の睡眠障害の予防に関する研究に寄与することが期待されます」としている。

 研究は、北陸先端科学技術大学院大学創造社会デザイン研究領域のクサリ モハマドジャバッド准教授、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授、石井香織教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

令和3年度 健康実態調査結果の報告 (厚生労働省 2022年1月)
People with poor sleep behaviors may be at risk for fatty liver disease (米国内分泌学会 2022年7月28日)
Sleep Factors in Relation to Metabolic Dysfunction-Associated Fatty Liver Disease in Middle-Aged and Elderly Chinese (Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2022年7月22日)
Good sleepers have lower risk of heart disease and stroke (欧州心臓病学会 2022年8月26日)
Sleep disorders and apnoea, physical inactivity (欧州心臓病学会学術集会2022)
Trouble sleeping? You could be at risk of type 2 diabetes (南オーストラリア大学 2022年12月2日)
Multidimensional Sleep and Cardiometabolic Risk Factors for Type 2 Diabetes: Examining Self-Report and Objective Dimensions of Sleep (Science of Diabetes Self-Management and Care 2022年12月2日)
北陸先端科学技術大学院大学創造社会デザイン研究領域
Sedentary behaviour and sleep quality (Scientific Reports 2023年1月20日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所