【新型コロナ】コロナ禍で高齢者の身体能力が3倍以上も低下 高齢者の体力を向上する介護予防プログラムが必要
新型コロナの流行により、高齢者の身体能力が低下しており、通常の1年間の加齢にともなう変化に比べ、とくに移動動作能力が3倍以上低下していることが、筑波大学の調査で明らかになった。
男女ともに、移動動作能力や柔軟性が低下していることに加えて、女性では、握力(上肢筋力)や、48本ペグ移動(手指巧緻性)も低下していることが分かった。
「コロナ禍で、高齢者の体力の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に行うことの必要性が示唆されました」と、研究グループでは述べている。
そこで筑波大学は、新型コロナ流行前から毎年実施している体力測定のデータを用いて、2016年から新型コロナ流行下の2020年にかけて、高齢者240人の各種体力の推移を調べた。
その結果、複合的な移動動作能力を評価する「Timed Up & Go」という体力テストの成績が、通常は1年間に平均して男性で0.05%、女性で0.12%遅くなる(つまり身体機能が低下する)のに対して、新型コロナ流行下の2019年〜2020年の1年間では、男性で0.7%(+0.42秒)、女性で0.36%(+0.22秒)遅くなったことが分かった。
つまり、新型コロナの流行下では、通常の1年間の加齢変化よりも、移動動作能力が3倍以上低下したこととなる。他にも同様の顕著な体力低下は、男女ともに5m通常歩行時間(歩行能力)や、長座体前屈(柔軟性)でもみられ、さらに、女性では、握力(上肢筋力)や、48本ペグ移動(手指巧緻性)でも確認された。
研究は、筑波大学体育系の大藏倫博教授らによるもの。研究成果は、「日本老年医学会雑誌」に掲載された。
新型コロナのパンデミックがはじまってから2年以上が経過し、これからのウィズコロナ時代での日常生活の在り方について、さまざまな議論が交わされている。
「コロナ禍で、高齢者の体力の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に行うことの必要性が示唆されました」と、研究グループでは述べている。
関連情報研究グループは今回、体力テストによる客観的な評価と、新型コロナ流行前からの追跡を行うことで、流行下では通常の加齢変化よりも機能低下がどの程度生じているのか、また、機能低下の内容に男女で違いがあるのかを調べた。
研究は、茨城県笠間市で実施している「かさま長寿健診」(2009年に開始された、高齢者の健康、体力、身体活動に着目した中規模集団の追跡調査)に参加した地域在住高齢者(男性107人、女性133人、平均年齢73.2歳)を対象に、2016〜2020年の4年間のデータを解析したもの。
これにより、新型コロナ流行下では、通常の1年間で生じる加齢変化と比較して、体力(身体機能)が顕著に低下していることが確認された。男女ともに顕著に悪化が確認された体力テストは、Timed Up & Go(複合的移動動作能力)、5 m通常歩行時間(歩行能力)、長座体前屈(柔軟性)だった。
Timed Up & Goは、歩行能力や動的バランス、敏捷性など、複合的な移動動作能力の総合的評価指標。椅子に腰かけた状態から合図とともに立ち上がり、3m前方のコーンを回って、再び椅子に腰かけるまでの動作を最大速度でう。この評価は、高齢者の日常生活機能(下肢の筋力、バランス、歩行能力、易転倒性)との関連性が高いことが示されており、医療現場だけでなく、介護現場での評価としても利用されている。
5m通常歩行時間でも、通常の1年間では、男性で−0.04秒、女性で−0.01秒と、男女ともに通常の加齢変化では機能が維持されていたものの、流行下の1年間では、男性で+0.19秒、女性で+0.15秒遅くなった。
長座体前屈でも、通常では、男性で+0.33cm、女性で+0.84cmと維持されていたが、流行下では、男性で−2.89cm、女性で−4.37cmと、柔軟性の低下がみられた。
つまり、新型コロナの流行下では、通常の1年間の加齢変化よりも、移動動作能力が3倍以上、柔軟性は5倍以上低下したことになる。さらに、女性でのみ、握力(上肢筋力)は3倍、48本ペグ移動(手指巧緻性)では4倍、通常の1年と比べて、流行下では顕著な悪化が確認された。
48本ペグ移動では、ペグを左右それぞれの手に1本ずつ持ち、手前の盤の穴に最大努力で素早く移すように指示し、48本のペグをすべて移し終わるまでに要した時間を記録する。上肢機能の総合的評価ができ、リハビリテーション分野でも用いられている。
女性では「握力(上肢筋力)」「48本ペグ移動(手指巧緻性)」も顕著に低下
「男女ともに移動動作能力や柔軟性が低下していることに加えて、女性でのみ上肢筋力や手指巧緻動作が低下していることが明らかになりました」と、研究グループでは述べている。
「これらのことは、新型コロナ流行下のような日常活動が制約される環境では、男女ともに複合的移動動作能力、柔軟性の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に行うことの必要性を示唆しています。さらに、女性については、上肢筋力や手指巧緻動作への働きかけも必要と考えられます」としている。
なお、今回研究は、地域在住高齢者の身体機能を体力テストにより、客観的かつ縦断的に評価し、新型コロナ流行下での影響を明らかにしたものだが、集団の平均的な体力の推移を観察したにとどまり、個人ごとの影響の受けやすさなどは検証していないとしている。
「今後は、対象者の質問紙調査データを照らし合わせて、身体体機能低下が顕著であった人の特徴や背景要因を把握し、高齢者の体力向上に向けた具体的なアプローチ法の立案を目指します」と、研究グループではコメントしている。
筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻 大藏研究室
新型コロナウイルス感染症流行下の高齢者の体力の変化〜パフォーマンステストを用いた検討〜 (日本老年医学会雑誌 2022年10月25日)