【新型コロナ】子供の運動不足も深刻 動作時のバランス能力が低下 不規則な生活やスクリーンタイムは増加
新型コロナの流行により、子供の「動作時のバランス能力」が低下しやすくなっており、不規則な生活スタイルにより動画視聴時間が増加し、睡眠時間が短縮し、体脂肪率が上昇していることが明らかになった。
動作時のバランス能力は、動きをともないながら、転倒しないようにバランスを保ち続ける能力のこと。研究は、名古屋大学などが、小中学校の児童と生徒を対象に、新型コロナの流行前と流行中に行った、運動器健診による縦断調査によるもの。
新型コロナの流行により、子供の「動作時のバランス能力」が低下しやすくなっており、不規則な生活スタイルにより動画視聴時間が増加し、睡眠時間が短縮し、体脂肪率が上昇していることが、名古屋大学などの研究で明らかになった。
研究は、長期にわたる新型コロナの流行による運動不足が、子供の身体機能にどのような影響を与えるのかを調査したものであり、適切な運動プログラムの提供につなげていくためのヒントになるとしている。
研究グループは、9〜15歳の40人の児童と生徒を対象に、新型コロナの流行が、子供の身体機能や生活スタイルに与える影響を、前向き縦断的アプローチで調査した。
とくに子供の動作時のバランス能力を向上させることは重要であり、これらの機能を向上させるために、バランス能力を高くすることを意識した運動プログラムを提供していくことが必要としている。
研究は、名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の杉浦英志教授、伊藤忠客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター三次元動作解析室:動作解析専任研究員兼務)が、名古屋大学医学部附属病院小児科の伊藤祐史医員、愛知県三河青い鳥医療療育センター整形外科の則竹耕治センター長、小児科の越知信彦センター長補佐らとともに行ったもの。研究成果は、国際学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」にオンライン掲載された。
新型コロナの流行により子供の動作時のバランス能力が低下
活動制限から予想されるバランス機能低下のサイクル
2020年4月以降、日本では新型コロナが流行してから、子供は、学校での体育やスポーツ活動、外遊びを十分に行うことができず、その結果、さまざまな運動や体育に取り組む機会が制限されてきた。
子供の運動の機会が長期間制限されたことは、身体機能の発達や生活スタイルなどに関わるさまざまな側面に大きな影響を与え、将来、身体機能の低下や健康障害を引き起こす可能性がある。
これまでの研究で、新型コロナの流行により、身体機能の低下、不規則な生活スタイル、肥満などの傾向が強くなっていることが報告されている。しかし、新型コロナ流行にともなう運動不足が、子供の身体機能や生活スタイルに与える影響を、前向き縦断的アプローチで調査した報告はほとんどなかった。
そこで研究グループは、新型コロナの流行前と流行中に運動器健診を行い、子供の身体機能や生活スタイルがどのように変化したかを縦断的に調査した。9〜15歳の40人の児童と生徒を対象に、新型コロナ流行前と流行期間の2回に分けて、運動器健診に参加してもらい、「動作時バランス能力」「片脚立位時間」「下肢筋力テスト」「歩行速度」「体脂肪率」「身体活動時間」「動画視聴時間」「睡眠時間」「1週間の食事回数」「健康と生活の質に関するアンケート」を評価した。
その結果、子供の動作時バランス能力が低下しやすくなっており、動画視聴時間は増加し、睡眠時間が短縮していること、体脂肪率が高くなりやすくなっていることが判明した。
海外でも、子供の身体活動を行う時間や機会が制限されたことで、バランス機能が低下しやすいことが報告されてきている。今回の研究でも、とくに動的バランス機能が低下しており、動作時のバランス機能を高めるために必要な運動学習の機会が不十分であった可能性が高いと考えられるという。
新型コロナの流行による運動不足により、子供の筋力と歩行機能の面では、長期的な悪影響はないことが示されたものの、動的バランス機能の低下により、子供のケガのリスクが高まる可能性があり、今後の対策が急がれるとしている。
コロナ禍により十分な運動ができなくなり動作時バランス能力低下しやすくなった
「新型コロナ収束後は、子供の運動不足を解消し、外遊びや運動の機会を積極的に促すことが重要であることが示唆されました。また、新型コロナの流行前よりも流行中は、動画視聴時間が長くなり、睡眠時間も短く、体脂肪率が高くなりやすいことが統計的に示されました」と、研究グループでは述べている。
「これは、運動をする際に、他人との接触を少なくするなど、感染拡大を防ぐために、運動課題が限定されたことや、学校での部活動やスポーツをする機会が減り、外遊び時間が短くなったことが、生活スタイルに影響を与えた可能性があります」。
「子供の体脂肪率の増加については、身体活動時間や食事回数に有意な差がみられなかったことから、子供の動画視聴時間の増加など、不規則な生活スタイルが原因である可能性が示唆されました」としている。
今回の研究で、新型コロナ流行下での運動不足により、筋力や歩行機能には影響がみられなかったが、動作時のバランス能力が低下しやすく、生活スタイルも乱れやすく、体脂肪率が上昇しやすいことが明らかになった。
「子供のバランス機能を高めるためには、内容を充実させた運動プログラムを積極的に取り入れる対策が重要です。今後、バランス機能改善に特化した短期運動プログラムを開発し、その効果を確認していく必要があり、学校などでの実用化や臨床での応用が期待されます」と、研究グループでは述べている。
名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻・医学部保健学科
名古屋大学医学部附属病院小児科
Physical Functions among Children before and during the COVID-19 Pandemic: A Prospective Longitudinal Observational Study (Stage 1) (International Journal of Environmental Research and Public Health 2022年9月13日)