趣味をもつことが認知症の予防になる 楽しみのための活動はアルツハイマー病リスクを減少

2022年09月14日

 趣味をもつことは、認知症、とくに脳卒中の既往のない人で認知症のリスクを低下させる可能性が、日本人2万人超を対象とした研究で示された。

 余暇活動を楽しむことと、生きがいとのあいだに関連があり、趣味を通して生きがいをもつことが、認知症の発症予防につながると考えられる。

 趣味への取り組みを通した知的活動や身体活動が、認知症に原因になるアミロイドβの蓄積や、炎症反応、灰白質の萎縮を抑制している可能性がある。

 また、知的活動や身体活動は、認知症リスクを高める糖尿病や高血圧、肥満といった危険因子も改善し、認知症の予防につながるとみられる。

楽しみが目的の活動は認知症予防につながる? 40歳から調査を開始

 国立がん研究センターなどの多目的コホート研究「JPHC研究」の研究グループは、主に中年期の男女を対象に、趣味とその後の認知症罹患リスクとの関連を調べた。大多数が正常な認知機能を保っているとみられる、40歳からの中年期から調査を開始し、長期間追跡して調査した。

 趣味は「余暇時間に行う楽しむことを目的とした活動」であり、これまでも趣味の活動が認知症の罹患リスクの低下と関係するという研究は報告されている。

 しかし、趣味と認知症の罹患リスクの関連について調べたこれまでの研究は、65歳以上の高齢者を対象に行われたもので、かつ追跡期間が短かった。

 趣味をもたないために認知症になるのではなく、認知症や認知機能の低下の症状のひとつとして、趣味をもてない状態になっている、つまり因果の逆転が生じている可能性も考えられる。

 趣味をもたないことが、見かけ上のリスクとなっている可能性もある。そのため、趣味と認知症の関連を正確に知るために、因果の逆転の影響をなるべく小さくし調べることがと求められていた。

40歳〜69歳の日本人男女2万2,377人を追跡して調査

 「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で、国立がん研究センターを中心に実施されている多目的コホート研究。20年以上にわたり、追跡調査が行われている。

 国立がん研究センターなどの「JPHC研究」の研究グループは、1993年〜1994年に、茨城、高知の2保健所管内に在住していた、脳卒中の既往のない40歳〜69歳の男女2万2,377人を対象に、2016年まで追跡して調査し、介護保険認定情報から把握した認知症の発症と、趣味との関連を調査した。

 1993年〜1994年に実施したアンケート調査での、「趣味はありますか?」という質問の回答から、対象者を、趣味が「ない・ある・たくさんある」の3つのグループに分け、「ない」と回答したグループと比べた場合の、他のグループのその後の認知症の罹患リスクを調べた。

 また、認知症と診断される前の脳卒中既往の有無から、脳卒中既往のない認知症と脳卒中既往のある認知症に分けた解析も行った。

 2006年〜2016年までの追跡期間中に、3,095人が認知症と診断された。2006年〜2012年の追跡期間中には、1,333人が脳卒中既往のない認知症、466人が脳卒中既往のある認知症を発症した。

趣味をもつ人では認知症リスクが低いという結果に

 その結果、認知症の罹患リスクは、趣味がない人に比べて、趣味がある人では18%、趣味がたくさんある人では22%、それぞれ低いことが明らかになった。

 年齢層を中年期(40〜64歳)とそれ以上(65〜69歳)で分けた場合、いずれの年齢層でも、趣味をもつ人では認知症の罹患リスクが低いという結果になった。

 さらに、趣味がない人に比べて、趣味がある人、趣味がたくさんある人では、脳卒中既往のない認知症の罹患リスクが23%低いことが明らかになった。一方で、趣味と脳卒中既往のある認知症とのあいだには、明らかな関連はみられなかった。

認知症のリスクは、趣味がある人では18%、趣味がたくさんある人では22%、それぞれ低いことが明らかに
とくに65歳〜69歳の趣味がたくさんある人では、認知症のリスクは32%減少した

出典:国立がん研究センター、2022年
知的活動や身体活動に取り組んでいる人はアルツハイマー病の発症が少ない

 これまで米国や日本で行われた、65歳以上の高齢者を対象とした短期間の研究でも、趣味に取り組む時間が長い人や、「グラウンド・ゴルフ」や旅行などを趣味にしている人では、認知症の罹患リスクが低いことが報告されている。

 主に中年期の人を対象に調査した今回の研究でも、同様の結果が示された。とくに脳卒中既往のない人が趣味に取り組んでいると、認知症リスクはより低下した。脳卒中既往のない認知症の多くは、アルツハイマー型認知症だと考えられる。

 アルツハイマー型認知症は、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく進行性の病気で、最初に物忘れが起こるのが特徴。進行するにつれて脳全体が萎縮して、認知機能全体が徐々に低下していく。

 多くの研究で、知的活動に取り組む人はアルツハイマー型認知症のリスクが低いこと、また身体活動に取り組む人も、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、脳血管疾患をともなう認知症、混合型認知症のリスクが低いことが報告されている。

趣味があると、とくに脳卒中の既往のない人で認知症のリスクが低い
脳卒中の既往のない認知症の多くは、アルツハイマー病だと考えられている

出典:国立がん研究センター、2022年
趣味を通して生きがいをもつことが認知症の発症予防につながる

 楽しい余暇活動と生きがいとのあいだに関連があり、生きがいをもつ人では、とくにアルツハイマー型認知症の罹患リスクが低いと考えられるという。趣味を通して生きがいをもつことが、認知症の発症予防につながっているとみられる。

 趣味への取り組みを通した知的活動、あるいは身体活動が、認知症の原因になるアミロイドβの蓄積や、炎症反応、灰白質(神経細胞が集まっている領域)の萎縮を抑制すると考えられる。

 また、こうした知的活動や身体活動は、認知症リスクを高める糖尿病や高血圧、肥満といった危険因子も改善し、認知症の予防につながるとみられる。

 「今回の研究の限界として教育歴や精神疾患、向精神薬の服薬の有無といった認知症に関係する要因の影響を考慮することができなかったことや、趣味の数や種類、頻度と認知症の罹患リスクとの関連を調べることができていないことが挙げられ、今後さらなる研究が必要です」と、研究グループでは述べている。

多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Hobby engagement and risk of disabling dementia (Journal of Epidemiology 2022年5月14日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所