心筋梗塞や脳卒中を予防するための「生活エッセンシャル8」 新たに睡眠を追加 良い睡眠は心臓を守る
米国心臓学会(AHA)は、心臓血管の健康を促進するためのチェックリスト「生活エッセンシャル8」を新たに発表した。これまでは7項目だったが、心臓血管の健康に不可欠として、新たに「睡眠」の項目を追加した。
「生活エッセンシャル8」は、▼禁煙、▼運動・身体活動、▼健康的な食事、▼適正体重、▼血糖コントロール、▼コレステロールの管理、▼血圧の管理、▼睡眠の改善という8項目で構成されている。
成人の心血管の健康を最適化するための、新しい睡眠の測定基準として、毎日7〜9時間の睡眠をとることを提案し、年齢に応じた睡眠時間をとること、たとえば子供にはそれ以上の睡眠を勧めるなどとしている。
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患は、米国を含む世界で最大の死因となっている。心臓病と脳卒中に関するAHAの2022年の統計によると、米国では1億2,150万人が高血圧で、1億人が肥満、2,800万人以上が2型糖尿病だ。一方、運動・身体活動の推奨基準を達成している人は、成人の4人に1人しかいないとしている。
過去20年間のさまざまな調査研究で、すべての心血管イベントの80%以上は、健康的な生活スタイルと、これまで知られている心血管リスク要因の改善により、予防できる可能性があることが示されている。
「良い睡眠は、心臓と脳の健康にとって不可欠な要素です。より健康的な睡眠パターンをもつ人は、体重・血圧・2型糖尿病のリスクなどの健康要因をより効果的に管理できている傾向があります」と、米ノースウェスタン大学医学部で心臓研究をしているアイリーン フォエル教授は言う。
「睡眠時間の新しい測定基準は、最新の研究結果を反映しています。さらに、スマホなどのウェアラブルデバイスの普及により、睡眠測定の方法は進歩しており、人々は自宅での睡眠習慣を確実かつ日常的に管理できるようになっています」としている。
生活エッセンシャル8
米国心臓学会(AHA)
心血管の健康を最適化するための「生活エッセンシャル8」のコンポーネントは、"健康行動"と"健康要因"の2つの主要な領域に分けられる。
健康行動には、▼健康的な食事、▼運動・身体活動、▼喫煙と受動喫煙の害、▼睡眠の改善、などの項目が含まれる。健康要因には、▼健康的な体重、▼コレステロールの管理、▼血糖値の管理、▼血圧管理、などが含まれる。
「このチェックリストでは、人生のあらゆる段階で取り組むべき、前向きな目標を人々に示すことを目指しています」と、AHAのドナルド ロイド-ジョーンズ理事長は言う。
「生活エッセンシャル8」を策定するために、12年におよぶ2,400件以上の科学的な論文や、心臓と脳の健康、および心血管の健康の測定での新しい発見などを盛り込んだとしている。
「健康的な老化を達成し、心臓病や脳卒中、さらにはがん、糖尿病、認知症など、多くの慢性疾患を発症するリスクを減らし、心血管の健康を改善する方法を知ってもらうための、実証済みの強力なツールとして役立ていただきたいと考えてます」。
AHAが公開している「マイ ライフ チェック」ツールを利用すれば、自分の心血管健康スコアを知ることができる。このスコアは、0〜100点で評価され、心血管の健康状態は、スコアが50点未満であると「不良」で、50〜79点は「中程度」、80点以上は、「高い」とそれぞれ判定される。
食事療法
個人のレベル(個人の健康管理、食事療法の指導)、およびポピュレーションのレベル(公衆衛生)で、大人と子供の食事の質を高めることが必要
AHAは、高血圧を防ぐための食事療法として「DASHダイエット」を提案している。▼塩分を控える、▼肉などの動物性食品に含まれる飽和脂肪酸を抑える、▼健康に良い不飽和脂肪酸を十分に摂る、▼野菜は1日350g以上、▼全粒粉など精製されていない穀類を摂る、▼糖質を控える――といった特徴があり、肥満や2型糖尿病などにも効果的とれさている。
運動と身体活動
運動ガイドラインでは、成人は週に150分以上の中強度の、あるいは週に75分の高強度の運動や身体活動を行うことが推奨されている。
喫煙と受動喫煙の害を避ける
これまでは、可燃式タバコのみが危険とされていたが、新たに電子タバコなどのニコチン送達システムも追加された。電子タバコも健康にとって有害であることを示した報告は増えている。受動喫煙も危険なので、なるべく避けるようにする。
睡眠の改善
睡眠の質や時間が心血管の健康に関連していることを示した研究は増えている。1日の理想的な睡眠時間は、成人では7〜9時間。子供では、5歳以下は10〜16時間、6〜12歳は9〜12時間、13〜18歳は8〜10時間。
健康的な体重
体格指数(BMI)は、体重コントロールや肥満の判定基準としては十分ではなく、内臓脂肪も含めて管理する必要がある。それでもBMIは、簡単に計算でき、広く利用できる利点がある。
成人ではBMIが18.5〜24.9であると、心血管の健康が良好になりやすい。理想的なBMIは人種や民族によって異なり、低体重(やせ)にも注意が必要だが、多くはBMIが高いと心血管疾患や2型糖尿病などのリスクが高まることが示されている。
血中脂質の管理
血中脂質(コレステロールや中性脂肪)を適正にコントロールすることが必要。最近は、総コレステロールではなく、non-HDLコレステロール(総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いたもの)を管理対象とすることも多い。
悪玉のLDLコレステロールは空腹時に測らないと正確な値が出ないが、non-HDLコレステロールは空腹時かどうかに左右されずに測定できることなどが評価されている。
血糖コントロール
1型糖尿病と2型糖尿病、糖尿病予備群で、1〜2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cを測定することが推奨されている。HbA1cは、長期的な血糖コントロールの指標にもなる。
糖尿病の人は、合併症を予防するために、HbA1c7.0%未満を、可能であれば6.0%未満を目指す。
血圧の管理
血圧は120/80mmHg未満が最適で、最高(収縮期)血圧130〜139mmHg、最低(拡張期)血圧80〜89mmHgであると、これまで通りの生活を続けていると高血圧へと移行してしまう可能性が高い。血圧が高い場合は、食事や運動などの生活習慣を見直す。
米国のガイドラインでは、成人のナトリウム摂取量を1日2,300mg(塩分相当量は5.8g)以下にすることを推奨しているが、AHAはさらに、1日1,500mg(同3.8g)以下を理想としている。
American Heart Association adds sleep to cardiovascular health checklist (米国心臓学会 2022年6月29日)
Life's Essential 8: Updating and Enhancing the American Heart Association's Construct of Cardiovascular Health: A Presidential Advisory From the American Heart Association (Circulation 2022年6月29日)
Life's Essential 8 (米国心臓学会)
My Life Check (米国心臓学会)