糖尿病の人はこうすれば運動能力を高められる 薬による血糖コントロールと運動療法を両立

2022年06月14日

 糖尿病の人はそうでない人に比べ、血糖コントロールが良好でないと、ウォーキングなどの有酸素運動の能力が低い傾向があることが知られている。

 血糖値を下げる薬と運動療法の組み合わせにより、血糖コントロールが改善すると、運動に対する反応が分子レベルで良くなるという研究が発表された。

 余暇に体をなるべく動かすようにすると、良好な検査結果につながることが、日本人を対象とした調査でも明らかになっている。

 運動は低強度の軽いものでも効果があるという。座ったままの時間を30分減らして、低強度の身体活動をすると、検査の結果が13%改善することも判明した。

高血糖を放置していると運動に対する反応が分子レベルで低下

 糖尿病の人はそうでない人に比べ、血糖コントロールが良好でないと、ウォーキングなどの有酸素運動の能力が低い傾向があることが知られている。

 つまり、高血糖を放置していると、運動に対する体の反応が鈍くなり、酸素を効率良く燃焼できない体になりやすい。

 しかし、薬物療法により血糖コントロールが良くなり、運動療法を行い心肺機能が向上すると、酸素を燃焼しやすい体に変わっていき、運動に対する体の反応を改善でき、運動能力を高められる。

 これは、米国のジョスリン糖尿病センターの研究で明らかになったことで、高血糖が長期間続くと、分子レベルで運動に対する筋肉の反応が低下することが示された。研究成果は、米国糖尿病学会(ADA)が刊行する医学誌「Diabetes」に発表された。

 「運動は誰にとっても多くの利益をもたらします。糖尿病予備群、1型糖尿病、2型糖尿病など、糖尿病のすべてのタイプの人にとって、運動や身体活動は血糖値を下げ、糖尿病が引き起こす神経障害や心臓病などの合併症を防ぐのに役立ちます」と、同センターで臨床・行動医学を研究しているサラ レッサード氏は言う。

 「ただし、糖尿病の人は、血糖値が高い期間が長くなると、代謝性疾患のない人に比べ、有酸素運動の能力が低くなることが課題になっています。つまり、体が酸素を効率的に燃焼できなくなり、トレーニングによる運動能力の向上に対して抵抗してしまうことが多いのです」。

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薬で血糖値を下げて運動をすると運動能力の低下を防げる

 そこで研究グループは、糖尿病マウスにSGLT2阻害薬である「カナグリフロジン」を投与する実験を行った。SGLT2阻害薬は、ブドウ糖を尿に排泄させることにより血糖値を下げ、心臓や腎臓を保護する効果もあると考えられている。

 糖尿病マウスに6週間、薬物療法を行うと同時に、運動用ホイールを走らせる実験を行ったところ、糖尿病が顕著に改善することが分かった。さらに、マウスの筋肉組織を調べ、高血糖により運動能力が低下する原因となる骨格筋の分子を特定することに成功した。

 「高血糖の状態が長期間続くと、運動に対する筋肉の反応が分子レベルで悪くなることが分かりました。しかし、幸いなことに、薬物療法で血糖コントロールを改善し、同時に運動療法も行うと、高血糖により発生する運動能力の障害を防ぐことができます」と、レッサード氏は言う。

 「血糖値を下げる薬と運動療法の組み合わせが、糖尿病や高血糖になっている人々の運動能力を改善するのに役立つ可能性があることを示せたのは、糖尿病とともに生きる人にとって希望となります」としている。

 研究グループは現在、薬物療法・運動療法・食事療法をどのように組合わせると、運動能力を改善するのにもっとも効果的かを探る研究を計画している。


余暇に軽い身体活動をするほど検査結果は良くなる 日本人を対象に調査

 オフィスワーカーは、仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)に、体を動かすことが、良好な検査結果につながることが、日本人を対象とした調査で明らかになった。

 平日の余暇で身体活動の時間が長いと、座位時間が短い傾向があり、運動や身体活動は低強度のものでも効果があることも分かった。低強度であっても、体をなるべく動かすようにすることが大切だという。

 余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動にあてると、総合的な健診結果が13%改善することも判明した。

 これは、明治安田厚生事業団 体力医学研究所の研究で分かったこと。活動量の実測データにもとづく世界初の知見としている。

余暇での座っている時間を見直し、低強度でも良いので、なるべく体を動かすようにすると、糖尿病・肥満・メタボに関連する健診結果は良くなる

出典:明治安田厚生事業団、2022年
ゆっくりした歩行や家事などの低強度の身体活動でも効果がある

 研究グループは、オフィスワーカーの1日の座っている時間(座位行動)、体を動かしている時間(身体活動)を、活動量計で実測し、健診結果との関連について調べた。オフィスワーカー1,258人を対象に、腰に活動量計を装着してもらい、ふだんの身体活動量や座位行動時間を測定した。

 その結果、仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)に身体活動を多く行い、座ったままの時間を少なくすると、良好な健診結果につながることが分かった。

 総合的な健診結果とは、▼腹囲、▼血圧、▼空腹時の血糖値、▼善玉のHDLコレステロール、▼中性脂肪値などの結果をひとつにまとめた、心血管疾患などのリスクにも関わる指標。

 また、意外なことに、良好な健診結果と強く関連したのは、本格的な運動のような高強度の身体活動ではなく、ゆっくりした歩行や家事などの低強度の身体活動だった。

 健診結果を良好に保ち、肥満やメタボ、心血管疾患などを予防するためには、TVの視聴やスマホの利用などの、余暇での座っている時間を見直し、低強度でも良いので、なるべく体を動かすようにすることが大切だとしている。

余暇の座位行動を30分減らして、身体活動に置き換えると、健診結果は改善

 さらに研究グループは、統計学的予測により、余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動に置き換えることで、総合的な健診結果が13%程度改善することも明らかにした。

 運動ガイドラインで推奨されている中・高強度の身体活動は、主に脂質代謝の指標と良好に関連することも分かった。

 心血管疾患や2型糖尿病などの病気は、世界的に死亡や障害の主要な要因になっている。対策するために、定期健診で測定する「腹囲」「血圧」「血糖」「コレステロール」「中性脂肪」などの値を適切に管理することが必要となる。

 体を積極的に動かすアクティブな生活スタイルは、こうした健診結果を良好に保つために重要であることがあらためて示された。

ゆっくり歩行や家事といった低強度の身体活動であっても、体を積極的に動かすことで、健診結果は良くなる


座ったままの時間を30分減らして、低強度の身体活動に置き換えることで、健診結果は13%相当改善

出典:明治安田厚生事業団、2022年

Controlling blood sugar may improve response to exercise training (ジョスリン糖尿病センター 2022年4月28日)
Canagliflozin Prevents Hyperglycemia-Associated Muscle Extracellular Matrix Accumulation and Improves the Adaptive Response to Aerobic Exercise (Diabetes 2022年2月2日)
明治安田厚生事業団 体力医学研究所
明治安田ライフスタイル研究 (MYLSスタディ)
Association of domain-specific physical activity and sedentary behavior with cardiometabolic health among office workers (Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2022年4月14日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所