余暇に軽い身体活動をするほど健診結果は良くなる 活動量の実測データにもとづく世界初の研究
オフィスワーカーは、仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)に、体を動かすことが、良好な健診結果につながることが明らかになった。
平日の余暇で身体活動の時間が長いと、座位時間が短い傾向があり、運動や身体活動は低強度のものでも効果があることも分かった。低強度であっても、体をたくさん動かすことが大切だという。
余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動にあてると、総合的な健診結果が13%改善することも判明した。
これは、明治安田厚生事業団 体力医学研究所の研究で分かったこと。活動量の実測データにもとづく世界初の知見としている。
明治安田厚生事業団 体力医学研究所が行っている「明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)」では、オフィスワーカーの1日の座っている時間(座位行動)、体を動かしている時間(身体活動)を、活動量計で実測し、健診結果との関連性を検討している。
この研究は、健診センターを拠点に、運動や座り過ぎを中心とした生活習慣が、健康にあたえる影響を解明するために行なわれているコホート研究。
その結果、仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)に身体活動を多く行い、座位時間が少ないと、良好な健診結果につながることが分かった。
総合的な健診結果とは、▼腹囲、▼血圧、▼空腹時の血糖値、▼善玉のHDLコレステロール、▼中性脂肪値などの結果をひとつにまとめた、心血管疾患などのリスクにも関わる指標。
また、意外なことに、良好な健診結果と強く関連したのは、本格的な運動のような高強度の身体活動ではなく、ゆっくりした歩行や家事などの低強度の身体活動だった。
健診結果を良好に保ち、肥満やメタボ、心血管疾患などを予防するためには、TVの視聴やスマホの利用などの、余暇での座っている時間を見直し、低強度でも良いので、なるべく体を動かすようにすることが大切だとしている。
研究成果は、スポーツ科学分野の国際誌「Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports」に掲載された。
余暇での座っている時間を見直し、低強度でも良いので、なるべく体を動かすようにすると、糖尿病・肥満・メタボに関連する健診結果は良くなる
研究は、2017〜2019年に「MYLSスタディ」に参加したオフィスワーカー1,258人を対象とした横断研究。参加者に、腰に活動量計を装着してもらい、ふだんの身体活動量や座位行動時間を測定した。
その際、参加者が勤める会社の就業規則をもとに、平日の9〜17時を仕事中、平日のそれ以外の時間を余暇、土曜・日曜・祝日を非仕事日と判定し、それぞれの活動場面別に、健診結果との関連性を調べた。
「組成データ解析」と呼ばれる統計手法により、1日の行動時間がもつ相互依存性を考慮し、年齢・性・教育年数・暮らし向き・配偶者の有無・喫煙と飲酒の習慣・緑黄色野菜の摂取頻度・残業時間、生活習慣病(高血圧・2型糖尿病・脂質異常症)の薬の服用、睡眠時間の影響を統計学的に調整した。
その結果、良好な健診結果と明確に関連するのは、仕事中の活動ではなく、「平日の余暇の身体活動時間が長いこと」や、「座位時間が短いこと」であることが明らかになった。
とくに、総合的な健診結果と強く関連したのは、運動のような高強度の身体活動ではなく、ゆっくり歩行や家事といった低強度の身体活動だった。
「メッツ/MET(またはMETs)」とは、運動や身体活動の「強度」を表す単位で、安静時(座って安静にしている状態)を1メッツとし、それぞれの身体活動がその何倍の強度に相当するかを示す。
研究では、1.6〜2.9メッツの軽めの身体活動でも効果があることが分かった。普通の歩行の強度は3メッツくらいなので、それよりも軽めの運動でも効果を期待できることが示された。
さらに研究グループは、統計学的予測により、余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動に置き換えることで、総合的な健診結果が13%程度改善することも明らかにした。
運動ガイドラインで推奨されている中・高強度の身体活動は、主に脂質代謝の指標と良好に関連することも分かった。
心血管疾患や2型糖尿病などの病気は、世界的に死亡や障害の主要な要因になっている。対策するために、定期健診で測定する「腹囲」「血圧」「血糖」「コレステロール」「中性脂肪」などの値を適切に管理することが必要となる。
体を積極的に動かすアクティブな生活スタイルは、こうした健診結果を良好に保つために重要であることがあらためて示された。
ゆっくり歩行や家事といった低強度の身体活動であっても、体を積極的に動かすことで、健診結果は良くなる
座ったままの時間を30分減らして、低強度の身体活動に置き換えることで、健診結果は13%相当改善
近年、「活動の場面(仕事・余暇)によって、健診結果への影響が異なる可能性があること」が分かってきた。
一方で、1日は24時間と決まっているため、運動などの行動を増やすには、テレビ視聴や睡眠などの別の行動の時間を、同じだけ減らす必要がある。
従来の研究では、こうした1日の行動時間の特性(相互依存性)が十分に考慮されておらず、とくに座ったままの時間の長いオフィスワーカーを対象にした研究も少ない。
そのため、オフィスワーカーが健診結果を良好に保つには、「どのような場面で・どれくらいの強度の・身体活動を増やす必要があるのか」については、良く分かっていなかった。
そこで研究グループは今回の研究で、こうした依存関係を統計手法で適切に検討し、オフィスワーカーを対象に、活動の場面別に座位行動や身体活動と健診結果の関連性を調べた。
「研究では、世界ではじめて"行動の相互依存性"を考慮したうえで、オフィスワーカーの活動場面別に身体活動や座位行動と健診結果の関連性を調べました」と、研究グループでは述べている。
「その結果、オフィスワーカーの健診結果の管理には、仕事中ではなく、余暇の座位時間を減らして、低強度であってもたくさん体を動かすのが大切であることを確認しました」。
なお、この研究では、身体活動や座位行動と健診結果の因果関係は明らかにされていない。統計学的予測の結果も、個人が行動変容した際に同じ結果が得られるとは限らないことに注意が必要としている。
また、「参加者が首都圏のオフィスワーカーであり、通勤などによる活動量が多い集団でした。得られた結果が活動量の少ない人や他の職種の人に当てはまるかについては、さらなる検討が必要です」としている。
明治安田厚生事業団 体力医学研究所
明治安田ライフスタイル研究 (MYLSスタディ)
Association of domain-specific physical activity and sedentary behavior with cardiometabolic health among office workers (Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2022年4月14日)