ウォーキングなどの運動は「魔法の薬」 運動を増やして、座りがちの時間は少なく 運動不足を15%減少

2021年12月22日

 運動は「マジック ピル(魔法の薬)」とも呼ばれる。糖尿病や肥満、高血圧、脂質異常症などを予防・改善するのに効果的だ。

 1日に座ったままの時間が長い人は、死亡リスクが上昇することが明らかになった。座位時間を一部を、運動の時間に置き換えただけで、健康増進をはかれる。

 運動が脳の能力を高め、認知症を予防する効果もあることが分かってきた。

座ったままの時間が1日10時間以上は危険

 世界保健機関(WHO)は、2030年までに運動不足を15%減少することを目標に、「身体活動に関する世界行動計画2018-2030」を推進している。2020年には「運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン」を発表した。

 シドニー大学などが、4ヵ国の4万4,000人以上を対象に、活動量計を装着してもらい活動量を測定する研究を行ったところ、座ったままの時間が1日に10時間以上ある人は、死亡リスクが上昇することが明らかになった。

 しかし、ウォーキングなどの活発な運動や身体活動を1日に30〜40分行うと、座りがちな時間がもたらすリスクを大幅に減らせることが明らかになった。

 運動をすることで経済的な恩恵も得られる。運動ガイドラインで推奨されている量の運動をすると、世界の国内総生産(GDP)を2050年までに年間0.15%〜0.24%増やせると推定されている。

運動不足を解消するために できることはたくさんある

 「新型コロナの世界的な流行の影響で、座ったままの時間が長く、運動不足の人は増えています。しかし、個々の人が自覚をもって生活スタイルの改善に取り組めば、運動不足のもたらす弊害を減らし、自分の健康を守ることは可能です」と、シドニー大学生活・身体活動・健康科学部のエマニュエル スタマタキス教授は言う。

 「階段ではエレベータを使わず自分の足で昇降する、テレビのコマーシャルの時間には立ち上がる、子供やペットと活発に遊ぶ、ダンスをする、オンラインでヨガやピラティスの講習を受けるなど、特別な設備やスペースを必要とせず、屋内できる運動はたくさんあります」としている。

 ガイドラインでは、運動・身体活動はすべてが重要であり、とにかく座ったまま過ごす時間を少しでも減らすことが重要だとしている。

 通勤では車を使わず徒歩と公共交通を利用する、昼食後には職場の周りを散歩する、家事、ジョギング、サイクリング、ガーデニング、高強度インターバルトレーニング、チームスポーツなど、自分が取り組みやすいものならどんなものでも良い。

 ウォーキングなどの中強度の運動を毎週150〜300分、筋トレなど含む高強度の運動を75〜150分行うことが推奨されている。そうした基準を満たしていない人でも、現状よりも体をより活発に動かすことを心がけ、運動不足を少しでも解消するだけでも恩恵を得られる。

 座位時間が最大何時間までなら許容されるかについては、明確な根拠(エビデンス)はまだないものの、世界ではそうした調査研究も行われており、もうすぐ回答を得られるだろうと研究者は述べている。

関連情報

運動が糖尿病リスクを減少 糖尿病大国の中国でも運動を奨励
太極拳・ヨガ・ピラティスも運動になる

 ウォーキングなどの運動をすることで、血液中のブドウ糖がすぐに消費されることで、血糖値が下がる。運動を続けていれば、血糖を下げるインスリンが効きやすい体質になる。運動を続けていれば、血圧が下がり、コレステロールが下がり、心臓疾患や脳卒中のリスクが減る。

 英バーミンガム大学の研究によると、運動をすることで糖尿病のリスクが減少し、世界でもっとも糖尿病人口が多い中国であっても、糖尿病の人を700万人以上減らせる可能性がある。

 研究グループは、空腹時血糖異常と診断されたばかりの20〜80歳の中国人4万4,828人を18年間にわたり追跡して調査した。中国は2021年時点で、糖尿病人口が1億4,000万人以上と推定されている、世界最大の糖尿病大国だ。

 空腹時血糖異常(IFG)は、WHO(世界保健機関)の基準では、空腹時血糖値のみが110〜125mg/dLと高めで、糖尿病と診断されるほどではないが、将来に糖尿病を発症するリスクが高い状態をさす。

 調査の結果、自由な時間にウォーキングなどの運動をしていた人は、その運動量がもっとも多い人で、糖尿病リスクが25%減少した。中程度の運動をしていた人でも20%、少し運動していたという人でも12%、糖尿病リスクはそれぞれ減少した。

 「体をあまり動かしていないという人が、運動を習慣として行うことで、糖尿病の発症を19.2%減少できる可能性があります。行っている運動の程度が高いほど、2型糖尿病のリスクは低くなります」と、バーミンガム大学応用衛生研究所のニール トーマス教授は言う。

 「中国では3億7,000万人がIFGと推定されています。活発な運動をする習慣を身につければ、700万人以上が糖尿病の発症を防ぐことができます。しかし、中国の成人の4分の3以上は、健康上のベネフィットを享受するのに十分な運動や身体活動を行っていません」としている。

運動が認知能力を高める 年齢がいくつになっても運動は効果がある

 運動の効果はそれだけでない。運動が認知能力を高め、認知症を予防する効果もあることが分かってきた。

 京都大学の研究によると、高齢者が3ヵ月間の運動に取り組むことで、認知機能が向上し、脳の構造(皮質容積や皮質厚)も変わってくる。年齢が高い人でも、また短期間の運動であっても、運動で得られる恩恵は明らかだという。

 研究グループは、平均年齢73歳の高齢者50人を体操教室に週1回通う介入群と、通わない待機群にランダムに分け、認知テストの成績や脳の変化にどのような違いがあらわれるかを調べた。

 その結果、3ヵ月後に介入群は認知成績が向上し、前頭前野(中前頭溝)の皮質容積が増えている高齢者ほど、認知テストの成績も向上した。一方、運動をしなかった待機群では、認知テストの成績や前頭前野の皮質容積や皮質厚の変化はなく、海馬の容積は減少した。

 「高齢の人は、運動をふだんから続けることで、脳や認知機能の変化が促され、日常生活の質を維持できる可能性があります。年齢がいくつになっても、多様な認知機能に関わる前頭前野をもとに戻すのは可能です」と、研究者は述べている。

3ヵ月間という短期間であっても、運動には高齢者の脳や認知機能を高める効果がある

出典:京都大学、2021年

座ったまま過ごす時間を減らして、運動不足を解消

 世界保健機関(WHO)がまとめた「運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン」では、運動不足を解消するために、次のことを勧めている。

 2型糖尿病や高血圧、がんなどの慢性疾患のある人も、ウォーキングなどの運動や身体活動を習慣として行うべきであり、「運動をすることで、それぞれの病状の改善も期待できます」としている。

  • ウォーキングなどの中強度の運動を週に150〜300分、高強度の運動なら75〜150分を行うことを目標とする。

  • ウォーキングなどの有酸素運動に加えて、筋力トレーニングなど筋肉を強化する運動も週に2日以上行うのが望ましい。

  • 上記の運動ができない人も、長時間座ったまま過ごす時間をなるべく減らし、体を動かすことを意識するだけでも、健康への害を減らせる。

  • 散歩程度の低強度の身体活動であっても、心肺機能の低下を防ぐのにつながるので、なるべく行うようにする。

  • 適度な強度の運動は、心拍数が増え、息がはずむが、会話ができる程度のもの。たとえば、活発なウォーキング、ダンス、庭の掃除など。一方、高強度の運動は、心拍数と呼吸数を大幅に増加させる。たとえば、ジョギング、サイクリング、水泳、重い物を運ぶ、階段を昇降する、テニスをするなど。

  • 65歳以上の高齢者にとって、運動には機能的能力を高め、転倒を防ぐ効果を期待できる。中強度の運動を週に3日以上行うと、機能的バランスと筋力の改善を期待できる。

  • 妊娠中および出産後の女性も、有酸素運動と筋トレを含む運動や身体活動を習慣として行うことが勧められる。ゆるやかなストレッチも効果がある。

Aim to exceed weekly recommended physical activity level to offset health harms of prolonged sitting (BMJ 2020年11月25日)
World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour (British Journal of Sports Medicine 2020年11月25日)
Physical exercise reduces risk of developing diabetes, study shows (バーミンガム大学 2018年2月20日)
Increased leisure-time physical activity associated with lower onset of diabetes in 44 828 adults with impaired fasting glucose: a population-based prospective cohort study (British Journal of Sports Medicine 2018年2月20日)
京都大学大学院総合生存学館
Prefrontal Plasticity after a 3-Month Exercise Intervention in Older Adults Relates to Enhanced Cognitive Performance(Cerebral Cortex 2021年5月3日)
運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン(世界保健機関)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所