筋肉が減る「サルコペニア」は早期に対策すれば防げる 運動を意識して行い、筋肉の量と機能の低下を防ぐ
筋肉が著しく減り健康リスクが高い状態である「サルコペニア」は、早い段階から対策すれば予防できることが明らかになった。
ウォーキングなどの運動やガーデニングなどの身体活動をして、体を動かすことで、サルコペニアを予防できることも示されている。
加齢とともに筋肉が減っていくのは自然なことだが、筋肉量の減少が広範囲に急速に進むと、歩く速度が低下し、着替えや入浴など日常生活の動作も行いづらくなる。体のバランス機能が悪くなり、転倒・骨折の危険性も高まる。
そうした状態は「サルコペニア」と呼ばれる。高齢者に多くみられるが、65歳以下の人でも、デスクワークや自動車に頼る生活スタイルにより、筋肉が著しく減っている場合があるので注意が必要だ。
米国内分泌学会によると、筋肉の低下した高齢者は、とくに男性で2型糖尿病を発症するリスクが高い。身体を支え、動かしている骨格筋は、身体の活動を支える大切な筋肉だ。この骨格筋は糖尿病とも関わりが深いと考えられている。
「血糖を下げるインスリンに対する感受性のある、体でもっとも大きい組織は骨格筋です。骨格筋は血糖値のコントロールにも重要な役割を果たしています」と、ジョンホプキンズ大学医学部糖尿病学科のリタ カリャニ氏は言う。
「65歳以上の成人の4人に1人が糖尿病を患っており、糖尿病の負担がもっとも大きいグループといえます。サルコペニアと呼ばれる、加齢にともなう筋肉の喪失が、高齢者の糖尿病の発症につながっている可能性があります」としている。
研究グループは、ボルチモアの老化縦断研究に参加した、平均年齢が60歳の男性871人と女性984人を対象に、15年追跡して調査した。その結果、筋肉の多い男性と女性は、空腹時と食後2時間の血糖値が低く、糖尿病予備群が少なかったが、筋肉の低下した男性では、2型糖尿病の発症が2.6倍に増えた。
「加齢にともなう痩せや体重の低下は、男性の2型糖尿病の発症率を高めることが明らかになりました。しかし、これまで加齢にともなう筋力低下は、高齢者の糖尿病の発症を予防するための介入対象としてみられてこなかった可能性があります」と、カリャニ氏は言う。
筋肉が減らないように、食事と運動などで早い段階で対策すると、サルコペニアを防げる可能性があることが、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究で明らかになった。
「一般的に歳をとるにつれ、筋肉の量と機能は失われていきます。この低下が予想よりも広範囲であったり、急速である場合、サルコペニアと判定されます。筋肉の衰弱は老化にともなう自然なものですが、早い段階から対策することで、これを防げるようになることが示されました」と、同研究所ケア科学・社会学部のカテリーナ トレビザン氏は言う
研究グループは、スウェーデン国民加齢ケア研究に参加した、60歳以上の3,219人を対象に12年間追跡して調査した。研究開始時に体力テストやふくらはぎの周囲径の測定などを行い、参加者の10%をサルコペニア、27%をサルコペニア予備群と判定した。
その結果、身体活動レベルが高く、認知機能も高く保っているサルコペニア予備群は、サルコペニアのない状態に改善しやすいことが分かった。サルコペニアを予防できる割合は、身体活動レベルが高い高齢者で1.84倍、認知機能の高い高齢者では1.17倍に上った。
「糖尿病などの慢性疾患の数の多い人ほど、サルコペニアの改善の可能性は低く、死亡リスクが高いことも示されました。筋肉の減少と、それにともなう生活の質の低下に対策するために、早期から介入し、慢性疾患もきちんと治療することが大切です」と、トレビザン氏は述べている。
運動は、血圧や血糖値を下げて善玉コレステロールを増やし、動脈硬化の予防につながるだけでなく、筋肉が急激に減るサルコペニアの予防にも役立つ。運動により、メンタルヘルスにも良い影響を得られる。
米国老年医学会によると、ウォーキングなどの運動やガーデニングなどの身体活動を習慣として行うことで、サルコペニアを予防でき、重症化するのを防げる可能性がある。健康的な生活スタイルは、70歳以上の高齢者でも有効だという。
オランダのエラスムス大学医療センターなどは、高齢者の健康的な加齢を促す方策をさぐる欧州のプロジェクトの一環として、欧州の5ヵ国(スペイン、ギリシャ、クロアチア、オランダ、イギリス)の施設でケアを受けている計1,735人高齢者を対象に調査した。およそ半数は、薬物療法やメンタルヘルスケア、体の虚弱を減らすためのケアを受けていた。
参加者に「ガーデニング、車の掃除、散歩など、低強度または中強度の運動や身体活動を、どれくらいの頻度で行っていますか?」といった質問をし、運動・身体活動を行っている頻度や強度、その後のフレイル(虚弱)の発症について調べた。
その結果、活発な身体活動を週1回未満しか行っていない人は、週1回以上行っている人に比べ、フレイルになる割合が1.31倍高く、身体的・心理学的・社会的フレイルになるリスクも高かった。
これまでサルコペニアやフレイルの予防ついての研究は、50〜70歳を対象として行われたものが多く、70歳以上の高齢者についてはよく分かっていなかった。
「ウォーキングやガーデニングなどの中強度の運動や身体活動を行うことで、身体的だけでなく心理的・社会的にもフレイルを改善または維持できることが示されました。運動を意識して行うことが重要です」と、研究者は述べている。
Older men with sarcopenia are more likely to develop diabetes over time(米国内分泌学会 2020年4月30日)
The Relationship of Lean Body Mass With Aging to the Development of Diabetes(Journal of the Endocrine Society 2020年4月30日)
Early interventions could help counteract muscle loss(カロリンスカ研究所 2021年11月30日)
Twelve-year sarcopenia trajectories in older adults: results from a population-based study(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2021年11月30日)
Regular physical activity can maintain or improve frailty(米国老年医学会 2020年6月10日)
Longitudinal Association Between Physical Activity and Frailty Among Community-Dwelling Older Adults(Journal of the American Geriatrics Society 2020年3月20日)