音楽に合わせた軽めの運動が認知機能や気分を向上 「運動は、少し動きを速くして休憩を挟みながら行うと、より楽しく快適に」
65〜74歳の健常高齢者15人を対象に、10分間連続して行う場合と、少し動きを速くして休憩を挟みながら行う場合とで、認知機能や気分への効果を比べたところ、どちらの運動でも認知機能は同様に向上したが、休憩を挟んでリズミカルに行った方が気分や楽しさへの効果はより大きいことが判明した。
運動を習慣として行うと、高齢者の認知機能やメンタルヘルスを良好に維持するのに効果的であることが知られるが、運動をいかに実践・継続するかは課題になっている。
明治安田厚生事業団の研究グループは、場所を選ばず、簡単に楽しくでき、認知機能や気分を高める運動条件について研究しており、具体的には、音楽に合わせて行う運動プログラム「スローエアロビック」による、高齢者の認知機能や気分に与える効果について調査している。
「スローエアロビック」は、筑波大学、日本エアロビック連盟と共同で開発・効果検証をしているエクササイズで、同連盟の登録商標となっている。「開く・伸ばす・ひねる」の3つの要素を取り入れた運動であることが特徴。
また、楽しく実践できる運動スタイルとして、同じ強さで運動し続けるよりも、中・高強度の運動とインターバル(または軽い運動)を組み合わせる間欠的運動が注目されている。
そこで、今回の研究では、音楽に合わせた「スローエアロビック」を行うとき、10分間連続して行う連続運動よりも、同じ10分間でも少しリズムを速めて休憩を挟みながらインターバル形式で行う間欠運動として行った方がより効果的と考えた。そうした運動は、トータルの運動強度は同じであっても、気分や認知機能の向上の効果をより得られやすい可能性がある。
公益社団法人 日本エアロビック連盟
研究では、65〜74歳の健常高齢者15人を対象に、「スローエアロビック」を次の2つの運動スタイル(連続条件あるいは間欠条件)で行ってもらった。
「スローエアロビック」を通常のテンポ(90bpm)の音楽に合わせて10分間連続して行う。 | |
「スローエアロビック」を速めのテンポ(120bpm)の音楽に合わせて90秒行って30秒休憩×5セット。 |
トータルの反復回数を揃え、運動強度の指標として、運動中の心拍数から心拍予備率を算出し、さらに自覚的運動強度(RPE)を測定した。
心拍予備率は、運動の強度を表す指標のひとつ。[(運動中の心拍数−安静時心拍数)÷(最大心拍数−安静時心拍数)×100]という式で求められる。39%以下は低強度以下の運動とされる。
認知機能の評価としてストループ課題を運動の前後に行った。気分の測定として、運動前後に二次元気分尺度(TDMS)という質問紙により快適度と覚醒度を評価し、運動中の気分変化をFeeling scaleで評価した。さらに、運動後に身体活動の楽しさ尺度(PACES)によって運動の楽しさを評価した。
その結果、運動後の認知課題成績の向上は同程度だったが、間欠運動の方がより運動中の気分が良くなり、楽しさも向上することが明らかになった。
運動中の心拍予備率は連続条件で19.4±6.50%(平均±標準偏差)、間欠条件で22.4±6.91%だった。また、RPEは連続条件で10.3±1.69、間欠条件で10.6±1.9だった。どちらの項目も統計的に有意差はなく、これらの結果から、どちらの運動も低強度以下の運動であり、強度に違いがないことが確認された。
認知機能については、どちらの運動後もストループ干渉の時間が短縮したが、気分を比較すると、運動前後の快適度・覚醒度の変化に違いはなかったものの、運動中の気分は間欠条件でより良く変化していた。さらに、運動後に評価した楽しさも、間欠条件の方が高いことが明らかになった。
運動中の気分は、間欠条件でより良い方に変化した。運動後に評価した楽しさも、間欠条件のほうが高かった。
高齢化が急速に進む日本で、高齢者のうつ・認知症予防は大きな社会的課題となっている。身体に負担の少ない低強度運動は、実践しやすいだけでなく、高齢者の認知機能やメンタルヘルスの向上につながるとされている。
研究グループはこれまで、音楽に合わせた「スローエアロビック」の一過性効果を検証しており、低強度のエアロバイク運動に比べ、認知機能の向上は同程度で、より気分(快適度や活性度)を高めることも明らかにしている。
間欠的な運動スタイルは、運動時間が短くても、身体機能に対し同程度、もしくはより大きい効果があり、さらに認知機能・気分の向上にも効果があると考えられる。
「今回の研究では、音楽に合わせた軽めのエクササイズが高齢者の認知機能やメンタルヘルスに与える効果を調べ、間欠的な運動スタイルは、認知機能に与える効果は同程度であっても、運動中の気分や楽しさはより高められることを確認しました」と、研究者は述べている。
「運動中の気分や楽しさは運動の継続率に関係することから、今回の研究結果は、より継続しやすく、認知機能・気分を高める低強度運動プログラムの開発に寄与すると考えられます」としている。
なお、研究に参加した高齢者は習慣的に身体を動かしている高齢者が多かったため、運動不足の高齢者やより高齢でも同様の効果が得られるのか、また長期的に継続したときの効果など、さらなる検討をしていく必要があるとしている。
公益財団法人 明治安田厚生事業団
体力医学研究所
Comparison Between the Effects of Continuous and Intermittent Light-Intensity Aerobic Dance Exercise on Mood and Executive Functions in Older Adults(Frontiers in Aging Neuroscience 2021年10月7日)