ウォーキングなどの運動が心臓病リスクを50%減少 運動には糖尿病やがんの予防効果も 米国で年間4.6万例のがんを予防

2021年11月04日
米国心臓学会(AHA)の研究で、ウォーキングなどの活発な運動を行うことで、心臓発作や心臓突然死のリスクを最大で50%減少できることが明らかになった。

 運動により2型糖尿病のリスクを減少できることが、中国の成人4万人超を対象とした調査で明らかになっている。運動をすると、血中のブドウ糖がすぐに消費され血糖が下がる。運動を続ければ、血中のブドウ糖の量を調整するインスリンが効きやすい体質に変わっていく。

 また、ウォーキングなどの運動を週5時間行っていると、米国で年間4万6,000例以上のがんの発症を予防できる可能性があると、米国がん協会が発表した。
運動によるベネフィットはリスクを大きく上回る

 米国心臓学会(AHA)は、300件以上の科学的研究を検討した結果、運動を行うことで減られるベネフィットはリスクを大きく上回ることを明らかにした。ウォーキングなどの運動により、心臓発作や心臓突然死のリスクを最大で50%減少できるという。

 「運動には、薬と同じ効果を期待できます。中強度から活発な運動や身体活動により、心臓や全身の血管を健康にできます。ウォーキングなどの有酸素運動は、下半身の太い筋肉をリズミカルに動かすことができ、運動の強度や時間も調整しやすい。すべての人に運動を習慣として行うことをお勧めします」と、オークランド大学医学部内科学のバリー フランクリン教授は言う。

 ほとんどの人は安全に運動することができるが、息切れ・立ちくらみ・胸痛・胸圧などの症状がある人は、医師による診察やアドバイスが必要になることがある。

 しかし、心臓病のリスクがあったり、心臓病の治療を受けたことのある人でも、軽い運動プログラムから始め、徐々に強度を上げていくなどして工夫すれば、安全に運動を行うことは可能だ。

 「運動は健康を改善するために不可欠です。健康改善が必要な人のニーズを満たすために、どうすれば安全に運動を行えるかについて、かかりつけの医師とも相談してほしい」と、フランクリン教授は指摘している。

ウォーキングなどの運動が糖尿病予備群の健康を改善

 ウォーキングなどの活発な運動を行うことで、2型糖尿病のリスクを減少できることが、中国で実施された大規模調査で明らかになった。運動を習慣化することで、中国・香港・台湾だけでも、2型糖尿病の発症を700万人減少できる可能性があるという。

 英国のバーミンガム大学などの研究グループは、空腹時血糖異常(IFG)と判定された20〜80歳の中国の成人4万4,828人を、18年間追跡して調査した。

 空腹時血糖異常は、WHO(世界保健機関)の基準では、空腹時血糖値が110〜125mg/dLと高めで、糖尿病と診断されるほどではないが、将来に糖尿病を発症するリスクが高い状態をさす。

 その結果、余暇時間に運動をする習慣のある人は、糖尿病リスクが減少したことが分かった。糖尿病リスクは、運動量が少ない人でも12%、中程度の人では20%、多い人で25%、それぞれ減少した。

 「運動不足の人が、WHOの運動ガイドラインで推奨されている量の運動を行うと、2型糖尿病の発症を19.2%減らせる可能性があります」と、バーミンガム大学応用衛生研究所のニール トーマス教授は言う。

 「しかし、中国の成人の4分の3以上は、そうした健康上の利益を得るのに十分な量の運動や身体活動を行っていません。糖尿病を予防するための戦略として、運動を奨励する必要があります」としている。

 中国・香港・台湾の糖尿病有病数は1億1,200万人に上り、糖尿病は60歳未満の早期死亡の原因の40〜60%を占めており、5兆8,000億円(510億米ドル)以上の経済的損失につながっているという。


がん予防の手段としても運動を奨励 週5時間の運動で効果

 運動ガイドラインで推奨されている、ウォーキングなどの適度な強度の運動を週5時間行っていると、米国で年間4万6,000例以上のがんの発症を予防できる可能性があると、米国がん協会が発表した。

 米国で2013〜2016年にがんを発症した30歳以上の成人の3%は、運動不足ががんの主な原因だという。男性が1万4,277例であるのに対し、女性は3万2,089例で、とくに女性で運動不足は深刻であることが示された。

 研究は、がんの部位ごとに、運動不足とがん発症との関連を推定したはじめてのものとなる。胃がんの16.9%、子宮体がんの11.9%、腎臓がんの11.0%、結腸がんの9.3%、食道がんの8.1%、女性の乳がんの6.5%、膀胱がんの3.9%が運動不足と関連していることが示された。

 研究者は、がんを予防するための手段としても、運動や身体活動を習慣として行うことを奨励すべきだとしている。

 一方で、「長時間労働、子育て、介護などで忙しく、運動をする時間をとれなかったり、近くに安全に運動ができる環境がないなど、運動を続けるのを困難に感じている人は少なくありません。とくに年収が少ない人やマイノリティは、運動に取り組むのが困難な割合が高いという報告もあります」と、米国がん協会の研究員のアデイア ミニハン氏は言う。

 「運動を続けるのを妨げる行動的・社会経済的な障壁を軽減し、病気のリスクの高い人を対象とした効果的な介入を行う戦略が、健康格差をなくすために必要です」としている。

Physical exercise reduces risk of developing diabetes - study(バーミンガム大学 2018年2月23日)
Increased leisure-time physical activity associated with lower onset of diabetes in 44?828 adults with impaired fasting glucose: a population-based prospective cohort study(British Journal of Sports Medicine 2018年1月13日)
Slow, steady increase in exercise intensity is best for heart health - much more is not always much better(米国心臓学会 2020年2月26日)
Exercise-Related Acute Cardiovascular Events and Potential Deleterious Adaptations Following Long-Term Exercise Training: Placing the Risks Into Perspective-An Update: A Scientific Statement From the American Heart Association(Circulation 2020年2月26日)
Data Continues to Show that Americans Need at Least 5 Hours Per Week of Physical Activity to Prevent Some Cancers(米国がん協会 2021年10月14日)
Proportion of Cancer Cases Attributable to Physical Inactivity by US State, 2013-2016(Medicine & Science in Sports & Exercise 2021年10月4日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所