【新型コロナ】緊急事態宣言で子供が運動不足に バランス機能が低下 「転倒」と「肥満」のリスクが増加

2021年10月26日
 新型コロナの緊急事態宣言の影響で、運動不足になった子供が多く、「転倒」と「肥満」のリスクが増加していると、名古屋大学などが発表した。

 小学校1年の児童110人を調査した結果、「バランス機能」が低下し、「体脂肪率」が上昇していることが示された。宣言後の「転倒リスク」は、宣言前の1.9倍近くに上昇した。

 コロナ禍で、身体機能の維持・向上に必要な運動プログラムを十分に行えなかった子供が多いとみられている。「運動や身体活動は量よりも質が重要」として、「バランストレーニング」と「適切な食習慣」の実行が重要としている。
低学年児童の「転倒」と「肥満」のリスクが増加

 名古屋大学などの研究グループは、小学校1年生児童を対象に、新型コロナ拡大にともなう緊急事態宣言前と宣言後の「身体機能」の違いを、運動器健診で調査した。

 その結果、宣言後の健診結果の方が、児童の身体の「バランス機能」は低く、「体脂肪率」は高いという結果となった。これは、「転倒」と「肥満」のリスクが高くなることを示している。実際に、宣言後の児童の「転倒リスク」は、宣言前の児童の1.899倍に上昇した。

 多くの都道府県では、新型コロナによる緊急事態宣言が発令される前の2020年3月2日から、5月25日まで小学校を休校とした。

 これらの緊急対応は、感染拡大を防ぐためには必要だったが、行動制限につながり、結果的に児童の身体活動の機会を減少させた。学校への通学や体育の授業を制限された児童は、健康問題だけでなく、身体機能が低下する可能性が高くなると考えられる。

 緊急事態宣言後の児童は、宣言前の児童よりも、「身体活動時間」は長いものの、運動の質が十分に担保されていない可能性も示された。

 児童の身体機能を高めるために、"バランス機能"と"体脂肪率"が重要であり、これらを向上させるため、質が担保された適切な運動プログラムを提供していくことが課題としている。

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の杉浦英志教授が、同専攻の伊藤忠客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター三次元動作解析室:動作解析専任研究員兼務)、愛知県三河青い鳥医療療育センター小児科の越知信彦センター長補佐、伊藤祐史医長、整形外科の則竹耕治センター長らとともに行ったもの。研究成果は、国際学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」電子版に掲載された。


コロナ禍で子供の「バランス機能」は低下、「体脂肪率」は増加
出典:名古屋大学、2021年
片脚立位は低い値、体脂肪率・転倒回数は高い値に

 研究グループは2018年12月〜2020年12月に、運動器健診に参加した6〜7歳の児童110人(男児53人、女児57人)を対象に調査を行った。新型コロナによる緊急事態宣言以降の児童の身体機能の変化について、直接測定して調査した研究は世界的にも少なく、国内でははじめて。

 宣言前に健診に参加した児童(宣言前群56人)と、宣言後に参加した児童(宣言後群54人)に分類し、この2群間の身体機能を比較するために、「体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容」を実際に測定して比較した。

 さらに、過去1ヵ月間の歩行中の「転倒回数」、健康と生活の質に関するアンケート、児童の強さと困難さのアンケート、身体活動時間、1週間の食事の回数、スポーツ経費、1日の睡眠時間について回答をしてもらった。

 その結果、宣言後に運動器健診に参加した児童は、「片脚立位時間」「体脂肪率」「転倒回数」「身体活動時間」で、両群の間に有意差があり、片脚立位は低い値、体脂肪率・転倒回数・身体活動では高い値を示した。とくに転倒回数との関連では、1.899倍と高いオッズ比が示された。


緊急事態宣言前後の低学年児童の身体機能の比較
グラフは平均値と標準偏差


出典:名古屋大学、2021年
コロナ禍で子供のバランス機能は低下し体脂肪率は増加

 このように、緊急事態宣言による活動制限は、バランス機能低下と体脂肪率の増加に繋がるリスクが高く、「バランストレーニング」と「適切な食習慣」の実行が重要であることが示された。

 また、宣言後の児童の身体活動時間は、宣言前の児童よりも長かったが、国外の研究では、身体活動の場所も大きく変化しており、自宅やガレージ、歩道や道路で身体活動を行う子供が増えたことが報告されている。

 身体活動を行うための場所の制限によって、身体機能の維持・向上に必要な運動プログラムが十分に行えなかった可能性が高く、このような状況がバランス機能に悪影響を及ぼした可能性が考えられるという。

 また、食事の回数、スポーツ経費、睡眠時間については、宣言前と宣言後では有意差はみられなかった。これは、今回の調査期間で、宣言の期間が短かったため、これらの要因の影響は多くないとみられる。

バランス機能を向上させる質の高い運動プログラムが必要

 今回の研究は、新型コロナによる緊急事態宣言による活動制限が「身体機能」にどのような影響を与えるのかに着目した研究。児童の低下しやすい身体機能を把握し、宣言が解除された後の、児童の身体機能低下の予防につなげるための重要な情報源になる。

 「新型コロナのパンデミックにともなう活動制限による、児童の身体機能低下を防ぐためには、内容を充実させた身体活動と良好な食習慣を促進することが望ましいと思われます」と、研究グループでは述べている。

 「緊急事態宣言にともなう活動制限による身体機能低下を予防・維持・向上させるためには、学校の放課、授業後、休日などを利用して、質の高い運動プログラムを積極的に取り入れるなどの対策が必要です」。

 「とくに"バランス機能"と"体脂肪率"の評価が重要であり、これらの機能を向上させるため、質が担保された適切な運動プログラムを提供していくことが課題です」としている。

名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻
Effect of the COVID-19 Emergency on Physical Function among School-Aged Children(International Journal of Environmental Research and Public Health 2021年9月13日)


[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所