肥満の人は日常生活動作(ADL)が低下しやすい 健康寿命も短縮 若い頃から健康な生活で対策を
「健康寿命を延ばすために、高齢者も肥満を予防・改善し、健康的な食事をとり体を活発に動かし、身体能力を維持することが必要です。そのために、中年の頃から対策しておくことが必要です」と、研究者は述べている。
日常生活動作(ADL)とは、日常生活をおくるために最低限必要な基本的な動作のこと。ADLの低下は要介護につながり、また死亡リスクが高まることが知られている。
日常生活動作には、起床や就寝、着替え、洗顔、食事、入浴などの「身の回りの動作」、屋内や外出時の歩行などの「移動動作」、料理、洗濯、掃除などの「家事動作」や、交通機関の利用などが含まれる。
これまでに、BMIが少し高い軽度の肥満であれば、標準体重の人と同じくらい健康に長生きできるという報告は発表されていた。しかし、今回の研究では、肥満のある人は、寝たきりや認知症などの介護が必要とならない期間である「健康寿命」が短くなる傾向があることが示された。
60歳、70歳、80歳といった年齢でも、肥満を解消して、バランスの良い食事をとり体を活発に動かし、健康的な生活をすることが、身体機能や日常生活動作が制限されることなく暮らしていくために効果的としている。
研究は、シンガポールのデューク-NUS医科大学によるもの。研究グループは、60歳以上のシンガポール人3,452人を対象とした全国縦断調査のデータを分析した。
身体機能の低下は、▼200〜300メートルを続けて歩ける、▼休むことなく階段を10歩昇れる、▼頭上に手を上げられるなど、腕と脚を動かす9つのタスクを実行できるかなどで判定した。
日常生活動作の低下は、▼入浴、▼着替え、▼食事などの6つの基本的な活動、家事、服用している薬の管理、公共交通機関を利用できるかなど、7つの日常活動を実行できるかで判定した。
その結果、60歳で肥満のある人は、標準体重の人に比べ、寿命のうち身体機能の制限をともなう期間が約6年長く、制限のない期間が約5年短いことが明らかになった。
さらに、肥満ある人は、日常生活動作の制限がある期間が3.5年長く、制限のない期間が3.5年短いことも分かった。こうしたパターンは、70歳や80歳の人でもみられた。
「上半身と下半身の身体機能を維持し、日常生活動作の能力を高めることが、高齢者の健康寿命を延ばすために必要です」と、デューク-NUS医科大学加齢研究・教育センターのラーフル マルホートラ氏は言う。
「今回の調査では、肥満と過体重の高齢者は、標準体重の人に比べ、健康寿命は同じくらいか、むしろ短くなることが示されました」。
「健康寿命を延ばすために、高齢者も肥満を予防・改善し、身体能力を維持することが必要です。そのために、中年の頃から対策しておくことが必要です。高齢者向けの健康システム、社会サービス、コミュニティサービスなども求められています」、デューク大学医療センターのパトリック ケーシー教授は言う。
「健康的な体重を維持し、体の可動性を維持することで、生活の質を向上できます。健康余命をより延伸できれば、医療・健康と社会的ケアの両方の支出の削減にもつながります」と、コメントしている。
研究グループは、今回の研究よりもさらに8〜9歳若い人を対象とした大規模調査も2017年から行っている。
日常生活動作(ADL)の低下は、女性でも深刻で、これまでに閉経などによる女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量の低下が、骨粗鬆症や身体機能低下のリスク上昇と関連することが分かっている。
新潟大学や国立がん研究センターなどの研究で、閉経年齢が早い女性と遅い女性では、日常生活動作が制限されるリスクが高いことが分かった。
一方で、妊娠・出産回数が多い女性は、日常生活動作が制限されるリスクが低いことが示された。
リスクの高い女性は、ADL低下にならないように、早くから食事や運動などの生活スタイルを見直し、対策しておく必要がある。
研究グループは、3万9,248人を対象に、女性のADLが低下する背景について調査した。
その結果、閉経年齢については、ADL制限となるリスクは、標準的な閉経年齢である50〜54歳よりも早く閉経したグループ(閉経年齢40〜44歳)で1.44倍に、遅く閉経したグループ(閉経年齢55〜60歳)でも1.55倍に上昇した。
一方、妊娠回数については、回数が多いほどADL制限となるリスクは低い傾向がみられた。妊娠回数0回に対して、2回および3回のリスクは約半分に減少した。
日常生活の状態 | |
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あり | ・ 屋内での生活はおおむね自分でできるが、介助なしには外出しない ・ 屋内での生活は何らかの介助を必要とし、日中もベッド上での生活が主であるが、座位を保つことができる ・ 1日中ベッドで過ごし、排泄、食事、着替えの時に介助がいる |
なし | ・ 身体にとくに障害はない ・ 身体に何らかの障害はあるが、日常生活はほぼ自分で出来、独力で外出する |
このように、閉経年齢が早い女性と遅い女性では、日常生活動作が低下するリスクが高いという結果になった。早期の閉経は、心疾患などのリスクが高まり、日常生活動作の低下につながった可能性が考えられるという。
また、閉経年齢が早く、女性ホルモンであるエストロゲンにさらされる期間が短いと、身体機能が低下するリスクが高いことも報告されている。
閉経年齢が遅い場合でも、日常生活動作が低下するリスクが高まることについては、閉経後のエストロゲンレベルが高いと、フレイル(加齢などにともない心身が弱くなる状態)のリスクが高いという報告もある。
この場合は、エストロゲンに長くさらされることが、身体機能の低下につながる可能性が考えられるという。
また、妊娠・出産回数が多い女性が日常生活動作が制限されるリスクが低いことについては、妊娠・出産の回数が多いことで、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌に影響し、がんなどの慢性疾患や、骨粗鬆症にともなう骨折などに対して予防的に働いている可能性がある。
Older adults with obesity may have fewer years of healthy life(デューク-NUS医科大学 2019年5月9日)
Years of life with and without limitation in physical function and in activities of daily living by body mass index among older adults(International Journal Of Obesity 2019年5月9日)
多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Menstrual and reproductive factors and limitations in activities of daily living: A case-control study within the Japan Public Health Center-based Prospective Study(Journal of Obstetrics and Gynaecology Research 2021年9月5日)