朝食でタンパク質を摂ると筋肉を増やせる 筋肉が低下した女性や高齢者は「体内時計」に合わせた食事タイミングを
筋肉の増加は体内時計を介して引き起こされる。体内時計に合わせてタンパク質の摂取タイミングを調整すると、筋肉を増やしやすいことが分かった。
朝食でタンパク質を多く摂取した高齢女性は、筋肉が増えやすくなっていた。
朝食時のタンパク質摂取による筋量増加には、筋肉の合成を高める作用が強い「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」が関わっている。
食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋量を維持・増加するために重要だ。一方、朝・昼・夕食の3食のなかでの摂取量の偏りが及ぼす影響についてはよく分かっていない。
そこで研究グループは、筋量増加の効果を得るためには、筋肉の「体内時計」(1周期約24時間の概日時計)が重要であることを突き止め、タンパク質の1日の摂取量だけでなく、摂取するタイミングも重要であることを解明した。体内時計は、栄養素の消化吸収、代謝などの日内変動にも関わる。
筋量増加には、体内時計に合わせたタンパク質の摂取が効果的であり、この摂取タイミングをうまく活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できる可能性がある。
研究は、長崎大学医歯薬学総合研究科神経機能学の青山晋也助教(早稲田大学重点領域研究機構次席研究員、2015〜2019年)、早稲田大学理工学術院の柴田重信教授、金鉉基講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載された。
多くの国で、タンパク質の摂取量は朝食に少ないこと、また、朝・昼・夕食といった3食のなかで摂取量に偏りがあることが分かっている。
この1日のなかでの食事の偏りが、骨格筋の機能と関係するという研究が報告されているが、朝の不足だけでなく、反対に夜の不足ではどうなるのかといった詳細については不明な点が多くあった。
そこで研究グループは、マウスを用いた動物実験を行った。マウスを1日2食の条件下で飼育し、1日の総タンパク質摂取量を揃えたうえで、各食餌のタンパク質含量を変化させた。
その結果、朝食で多くのタンパク質を摂取したマウスでは、夕食で多く摂取したマウスや朝・夕食で均等に摂取したマウスに比べ、筋量の増加が促進した。1日のタンパク質摂取量が同じ場合、朝(活動期のはじめ)に重点的に摂取した方が筋量の増加には効果的であることが示された。
このように、1日のなかでタンパク質を摂取する時間帯が異なることが、過負荷による筋肉量の増加に影響することを明らかになった。
朝食と夕食のタンパク質の配分と筋肉量の増加の関係
バリン、ロイシン、イソロイシンの「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」は、筋肉の合成を高める作用が強いアミノ酸だ。
研究グループは、朝食でのタンパク質摂取による筋量の増加効果は、タンパク質中に含まれる分岐鎖アミノ酸が関与しているのかを明らかにするため、マウスを1日2食の条件下で飼育し、朝食または夕食に分岐鎖アミノ酸添加食を摂取させた際の筋量を測定した。
その結果、朝食の分岐鎖アミノ酸添加食の摂取により、夕食での摂取に比べて筋量が増加しやすいことが分かった。このような朝食での摂取効果は、他のアミノ酸(牛乳のタンパク質の大半を占めるカゼインに含まれるアミノ酸)を添加した餌ではみられなかった。
つまり、朝食でのタンパク質摂取による筋量増加には、分岐鎖アミノ酸が大きな役割を果たしていることが示唆された。
なぜ朝(活動期初期)での摂取が筋量を増加させやすいのか? そのメカニズムを解明するため、タンパク質の摂取時間による効果の差を生み出すキー因子として、1周期約24時間の「概日時計(体内時計)」に着目し、摂取タイミングによる筋量増加効果に対する体内時計の関与を分析した。
全身のさまざまな細胞にある体内時計は、数十種類の時計遺伝子と呼ばれる遺伝子群によって構成され、さまざまな生理機能に昼夜のリズムをもたせている。
研究グループは、この時計遺伝子が栄養素の吸収や代謝などの生理機能の日内変動を引き起こし、タンパク質やアミノ酸の摂取タイミングによる筋量増加効果が生み出していると考えた。
そこで、時計遺伝子Clockに変異の入ったClock mutantマウスや、時計遺伝子Bmal1を筋肉で欠損させた筋特異的Bmal1欠損マウスを用いて、朝食と夕食のタンパク質の摂取パターンと筋量について計測した。
その結果、これらのマウスでは朝食のタンパク質摂取での筋量増加効果がみられず、摂取タイミングによる筋量の増加効果には筋肉の体内時計が関わることが明らかになった。
最後に、ヒトを対象とした研究で、3食でのタンパク質摂取と筋力や筋量との関係性について調査した。高齢女性を対象に、3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係性を調べた。
その結果、夕食で多くのタンパク質を摂取している女性に比べて、朝食で多くのタンパク質を摂取している女性では、骨格筋指数や握力が高く、1日のタンパク質摂取量に対する朝食でのタンパク質摂取量の比率と骨格筋指数は正の相関を示すことが分かった。
観察研究であるため因果関係にはまだ不明な点があるものの、ヒトでも朝のタンパク質が筋肉量の維持・増加に有効である可能性が示された。
高齢女性を対象とした朝食と夕食でのタンパク質摂取量と骨格筋機能の関連
「活動期のはじめである朝のタンパク質摂取による筋量増加作用には体内時計が重要という研究結果から、体内時計に合わせたタンパク質の摂取が筋量増加には効果的である可能性があります」と、研究者は述べている。
これは反対に、夜間勤務やシフトワーク、朝食欠食など体内時計を乱すような生活リズムの場合、朝食のタンパク質摂取による筋量増加の恩恵は受けにくい可能性も考えられるという。
また、「追加検証は必要ですが、タンパク質の量だけでなく、摂取タイミングもうまく活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できるかもしれません」としている。
今後の課題としては、実際に時計遺伝子がどのような分子メカニズムでタンパク質の摂取タイミングによる効果を生み出しているのか、また、ヒトを対象とした介入研究によって朝食のタンパク質摂取による有効性を評価する必要があるとしている。
「多くの国の食事調査では朝食のタンパク質摂取量は少なく、不足しがちとなっています。今後、朝食のタンパク質の摂取を勧めるうえで、朝食でも摂取しやすいタンパク質豊富なメニューなどの開発も望まれます」と、研究者はコメントしている。
長崎大学医歯薬学総合研究科神経機能学
早稲田大学理工学術院
Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock(Cell Reports 2021年7月6日)