運動不足は糖尿病リスク ウォーキングではない「日常生活での活動」にも効果が 運動の時間がない人も大丈夫

2021年05月28日
 日生生活で歩数を増やし、短時間でもより多くのステップを踏むことで、健康余命を延ばし長生きできるという調査結果を、米国心臓学会(AHA)が発表した。
 ウォーキングなどの運動をするため、まとまった時間をつくるのが理想的だが、「毎日忙しい」などの理由で運動の時間をもつのが難しいという人も多い。
 そんな人は、日常生活でなるべく体を動かすことを心がけるだけでも、そうした細切れの時間を集めると立派な「運動」になるという。
 逆に、長時間座っていることは、心臓病、がん、うつ病、2型糖尿病、肥満などの健康上のリスクを高めることも分かった。
 1日の歩数を増やすための工夫も紹介されている。
1日の歩数を増やすことで健康余命を延ばせる

 ウォーキングと健康余命のあいだにははっきりとした関連があり、これまで1日の歩数が多いほど健康に長生きできることを示した研究は多数発表されている。ウォーキングは、心臓の健康を含む、健康の維持・増進のための運動として、もっとも手軽で安全に取り組めるものだ。

 そのため米国心臓学会(AHA)の成人向け運動ガイドラインでは、週にウォーキングなどの中強度の運動を150分以上、あるいはランニングや水泳などの高強度の運動を75分間行うことが推奨されている。これは、1日の歩数や運動時間が重要な指標になるという考えにもとづくものだ。

 しかし最近は、便利で手軽なスマートフォンの健康アプリやウェアラブルデバイスを利用できるようになり、ウォーキングの歩数を含め、さまざまな体の動きを測定できるようになった。これにより、ウォーキングに関する研究も飛躍的に進歩した。

 スマホの人気の高いフィットネスアプリや歩数計の機能を使用すると、1日の歩数が簡単に細かく分かり、数ヵ月分の記録もできる。

スマホの運動アプリやデバイスは進歩している

 米ノースカロライナ大学などは、ウェアラブルデバイスの活動計の機能を利用し、10分以上の途切れのないウォーキングや、階段の昇降などの日常での短い身体活動について調査し、どのような身体活動が健康にもたらす影響が高いかを調べた。

 この予備調査の結果は、AHA主催で5月にオンライン開催された「疫学・予防:生活スタイルと循環代謝病疾患・医療カンファレンス2021」で発表された。

 米国で「女性の健康に関する研究(Women's Health Study)」という、4万人の女性を対象とした追跡調査が1990年代に開始された。

 研究グループは2011?2015年に、この研究に参加した1万6,732人の女性を対象に、ウェアラブルデバイスを身につけてもらい、週に4?7日間の身体活動について記録した。参加者は全員60歳以上で平均年齢は72歳だった。

 研究グループは、参加者を平均6年間追跡し、(1)中断の少ない10分以上のウォーキングなどの運動、(2)掃除や洗濯などの家事、階段の昇降、車まで歩くなどの日常での移動や通勤など、短い時間の身体活動の2種類について調べた。

 さらに2019年まで平均6年間、心臓病やがんなどのあらゆる原因による死亡について追跡して調査した。

1日の歩数を1,000歩増やすだけで死亡リスクは28%減少

 その結果、短い時間であっても体を活発に動かしており、1日の歩数の多い人は、中断のないウォーキングなどの時間の歩数に関係なく、より健康で長生きしていることが明らかになった。

 ウォーキングなどの運動で1日に2,000歩以上をカウントしていた人は、死亡リスクは32%減少したが、そうした運動をしていなくとも、1日の歩数を1,000歩増やすだけで、歩数が少ない場合に比べ死亡リスクは28%減少した。

 日常生活での短時間の身体活動が長生きにつながる効果は、1日に約4,500歩を増やすと最高になった。こうした効果は、ウォーキングなどの時間が途切れない運動の時間に関係なく得られることも分かった。

 「どんな種類の身体活動であっても、座ったまま過ごす時間に比べずっと優れていることが、ウェアラブルデバイスを利用した研究で明らかになりました」と、ノースカロライナ大学チャペルヒル校疫学部の主任研究者であるクリストファー ムーア氏は述べている。

 「健康のために心がけたいのは、日常生活で座ったまま過ごす時間を減らし、細切れの時間でもよいので、なるべく体を動かすようにすることです」と指摘している。

長時間じっと座ったままの生活スタイルは健康リスクに

 カリフォルニア大学の研究でも、長時間じっと座ったままの生活スタイルは健康上のリスクとなり、ときどき立ち上がって体を動かすことで危険を回避できることが示されている。

 同大学の学生を対象とした調査で、長時間座っていることは、心臓病、がん、うつ病、2型糖尿病、肥満などの健康上の懸念を高めることが示された。少なくとも1時間に1回は、立ち上がって体を動かし、長時間の座位を解消することで、こうしたリスクを軽減できる。

 しかし学生の多くは、「授業中に立ち上がってストレッチや散歩をするのは、社会的マナーに反するので受け入れられない」「運動は夜にまとまった時間行えば十分」と考えていることも分かった。

 「企業や学校では健康増進のために、簡単なものでよいので、短いストレッチ休憩のようなものを取り入れ、長時間座っていることの健康リスクについての意識を高める対策を取り入れるべきです」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の芸術文化学部のアンジェリア レオン教授は指摘している。


日常生活で座ったままの時間を減らし、歩数を増やすための工夫

 オーストラリア糖尿病協会によると、日常生活で座ったままの時間を減らし、歩数を増やすために、次の工夫が役立つ。

歩数を少しずつ増やしていく
 1回30分のウォーキングを週に5日行うのが理想的ですが、それができない場合は、ウォーキングの時間を1日に3?5分でも良いので、少しずつ増やしていくことからはじめましょう。

歩数計アプリを持ち歩く
 歩数をカウントできるスマホのアプリをもっていると、ウォーキングへの意欲が増します。まずは1、2週間、ためしに運動アプリを使ってみましょう。歩数のカウントが増えるのを見ると嬉しくなるはずです。慣れてきたら、1日の歩数を500歩、1,000歩と増やしていきましょう。

運動は続けることが大切
 体重60kgの人が30分の活発なウォーキングで消費できるカロリーは130kcalぐらい。少ないと思うかもしれませんが、1年続ければ4万kal以上を消費できます。運動は続けることが大切です。

車やバスに乗らない
 通勤に鉄道やバスを使う人は、いくつか手前の停留所で降りて、目的地まで歩いてみましょう。10?15分のウォーキングでもかなりの歩数になります。

外出はバスや電車で、なるべく階段を使うようにする
 外出するときは、車やタクシーはなるべく使わないようにして、バスや電車を使いましょう。また、駅にあるエスカレーターやエレベーターを使わずに、可能な限り階段を使うようにしましょう。

昼食時間に歩く
 ランチは職場の近くではなく、歩いて10分以上離れた場所でとりましょう。ランチタイムに余った時間にウォーキングなどをして体を動かしましょう。歩いていると街の様子が分かり、思わぬ発見もあります。

移動中に座らない
 疲れているときは電車やバスの座席に座りたくなりますが、体力に余裕があるときは座らないようにしましょう。立っているだけでも体の消費カロリーを増やすことができます。

事前に医師に相談を
 高血圧や糖尿病の治療を受けている人は、事前に医師に効果的で安全な運動のやり方について聞いておきましょう。糖尿病の薬物療法を行っている人は、低血糖への対策が必要となる場合もあります。

Taking more steps daily may lead to a longer life(米国心臓学会 2021年5月20日)
Sporadic Step Accumulation And All-cause Mortality In The Women'S Health Study: Do All Steps Count?(米国心臓学会 2021年5月21日)
Epidemiology, Prevention: Lifestyle & CardioMetabolic Health Conference 2021(米国心臓学会)
Women's Health Study(ハーバード医学大学院)
Study takes a stand against prolonged sitting(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 2020年2月6日)
Get up, stand up, stand up for your health! Faculty and student perspectives on addressing prolonged sitting in university settings(Journal of American College Health 2020年2月6日)
22 Ways to Add Healthy Movement to Your Everyday Routine(オーストラリア糖尿病協会 2014年11月7日)
[Terahata]