女性では中年期の「体重の増加・減少」の両方で脳卒中リスクが上昇 男性でも体重増加で心疾患リスクが上昇 JPHC研究

2021年05月19日
 体重増加は、女性では脳卒中リスクの上昇と関連しており、男性でも虚血性心疾患のリスク上昇と関連していることが、日本人7.5万人を対象とした調査で明らかになった。
 男女とも中年期の体重減少は、脳卒中リスクの上昇と関連していることが分かった。
 とくに女性では、体重増加と体重減少の両方でリスクが上昇する、U字型の関連がみられた。
 「中年期の体重変化は、循環器疾患のリスクに関連しているので、注意が必要です」と、研究者は述べている。
中年期の体重変化には注意が必要 体重減少も脳卒中リスクの上昇と関連

 体重増加は、女性では脳卒中リスクの上昇と関連しており、男性でも虚血性心疾患のリスク上昇と関連していることが、日本人を対象とした大規模調査で明らかになった。

 女性では、体重減少と体重増加の両方で脳卒中リスクが上昇する、U字型の関連があることも分かった。日本の女性は先進国でもっとも痩せ傾向が進んでいるという報告もあり、痩せ指向の強い女性にとって気になる結果になった。

 「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

 体格指数であるBMIと脳卒中や虚血性心疾患の関連については多くの報告があるが、体重が変化した後に、脳卒中や虚血性心疾患発症のリスクがどう変化するかを調べた調査は少ない。

女性では5年間で体重が10%以上増加すると脳卒中リスクが上昇

 JPHC研究ではこれまで、女性では5年間で体重が10%以上増加すると、脳卒中リスクが上昇することを報告してきた。今回の研究では、さらに脳卒中の病型別により詳しく調べ、かつ虚血性心疾患についても調査した。

 対象となったのは、1990年と1993年に岩手、長野、沖縄などの9保健所管内に居住していた一般住民のうち、がんや循環器疾患でなかった40〜69歳の男女7万4,928人。

 対象者を2012年まで追跡し、調査開始時から5年間の体重変化の程度によって5群に分類し、脳卒中と虚血性心疾患の発症との関連を調べた。解析では、地域、喫煙・飲酒・身体活動習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往などを調整し、それらの要因による影響を取り除いた。

 その結果、追跡期間中に3,975人が脳卒中を発症し、914人が虚血性心疾患を発症した。

女性では体重減少と体重増加の両方で脳卒中リスクが上昇

 男性では、体重変化がプラスマイナス2kg以内とあまり変わらなかった群に比べ、5kg以上減少した群では、脳卒中全体のリスクが1.17倍に上昇していた。体重増加については、脳卒中の発症リスクの上昇はみられなかった。

 虚血性心疾患については、男性では5kg以上体重が増加した群で、統計学的に有意ではないものの1.22倍とリスク上昇がみられた。追跡開始から5年以内の発症を除いて解析すると、1.34倍とより強い関連がみられた。

 女性では脳卒中全体のリスクは、体重が5kg以上減少した群で1.33倍に上昇し、3〜4kg減少した群でも上昇した。さらに、5kg以上増加した群でも1.61倍に上昇しており、U字型の関連が示された。

 女性では、体重変化と虚血性心疾患の発症リスクとのあいだに関連はみられなかった。


日本人の5年間の体重変化と脳卒中発症との関連



日本人の5年間の体重変化と虚血性心疾患発症との関連


国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ、2021年
女性の塞栓性脳卒中リスクはU字型に 体重の減少と増加の両方で上昇

 脳卒中の病型別にくわしくみると、男性では、虚血性脳卒中(血栓性、塞栓性)、出血性脳卒中(内出血、くも膜下出血)のいずれの病型でも、体重変化と発症リスクとのあいだに有意な関連はみられなかった。

 一方、女性では、5kg以上体重が増加した群で、血栓性脳卒中のリスクが1.72倍に上昇した。

 女性では塞栓性脳卒中について、体重の減少と増加の両方でリスク上昇が示され、U字型の関連がみられた。塞栓性脳卒中リスクは、5kg以上減少した群で2.49倍に、3〜4kg減少した群で2.00倍に、3〜4kg増加した群で1.66倍に、5kg以上増加した群で1.72倍にそれぞれ上昇した。

 女性の脳内出血は、3〜4kg減少した群でのみ1.40倍とリスク上昇が見られ、くも膜下出血については体重変化とのあいだに有意な関連はなかった。


日本人女性の5年間の体重変化と脳卒中病型別との関連


国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ、2021年
体重減少は男女とも脳卒中発症のリスク上昇と関連している

 これらの結果から研究グループは、「体重増加では、女性で脳卒中発症のリスク上昇と関連がみられ、男性では統計学的有意ではないものの虚血性心疾患発症のリスク上昇と関連がみられました。体重減少は男女とも、脳卒中発症のリスク上昇と関連がみられました」と述べている。

 「中年期の体重変化は、循環器疾患のリスクとして留意する必要があると考えられます。過去のJPHC研究では、体重増加は女性で脳卒中の発症リスクの上昇と関連がみられましたが、追跡期間を延長した今回の研究では、体重減少も脳卒中リスクの上昇と関連があることが示されました」と結論している。

 なお、体重減少が脳卒中のリスク上昇との関連を示した理由については、「明らかではありませんが、併存疾患やサルコペニアなど、健康上好ましくない状態によって体重が減少した可能性が考えられます」と述べている。

 「今回の研究では体重変化のみを検討しており、筋肉や脂肪などの体組成変化については考慮していないなどの限界があります。今後の研究では、これらの体組成変化が与える影響や、意図的に体重を変化した場合(たとえば健康のためにダイエットした場合)の検討を行うなど、さらなる研究が必要です」としている。

多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Weight change during middle age and risk of stroke and coronary heart disease: The Japan Public Health Center-based Prospective Study(Atherosclerosis 2021年2月23日)

[Terahata]