腰痛は失業率が上昇すると増える 1%上昇するごとに77万人超が腰痛に 女性でより深刻

2019年11月20日
 18歳以上の働き盛りの世代で、腰痛の有訴が完全失業率と関連があることが、東北大学の調査で明らかになった。失業率が1%上昇するごとに、全国で77万人の腰痛有訴者が増えるという。
 失業率の上昇による腰痛有訴への影響は、女性でより深刻であることも分かった。安定した経済政策、および雇用に関する男女格差の是正が、腰痛対策でも重要だ。
腰痛は要介護を発生させ、健康寿命を短縮する
 腰痛は要介護状態を発生させ、健康寿命の短縮に大きく関わる症状のひとつだ。一方、失業率は労働者人口で、死亡率やうつ症状などと関連することが知られており、政策などで修正可能な重要な指標となる。しかし、これまで腰痛の有訴と失業率との関連については明らかにされていなかった。

 そこで東北大学は、政府統計調査の個票データを用いた調査から、都道府県単位の完全失業率と腰痛の有訴の関連を調べた。日本でもっとも有訴者率が高いことから腰痛に着目したという。

 研究は東北大学大学院歯学研究科の杉山賢明助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

関連情報
失業率が1%上昇すると77万人の腰痛が増える
 研究グループは、政府統計調査の個票データを二次利用した繰り返し横断研究を実施。2010年・2013年・2016年の国民生活基礎調査の世帯票および健康票のデータセットをリンケージさせて解析した。計96万2,586人の労働者人口における腰痛と都道府県の失業率の関連の検証をした。

 腰痛の有訴率は、2010年は9.8%、2013年は9.7%、2016年は9.4%だった。都道府県単位の完全失業率と個人の腰痛有訴の関連について、完全失業率が1%上昇すると、腰痛の有訴のリスクが1.01倍有意に高くなることが分かった。これは、少なく見積もっても全国で77万人の腰痛有訴者が増えることを示している。

 また、完全失業率の上昇は、男性よりも女性の方が影響を受けることも明らかになった。失業率が1%上昇する影響は、男性と比較して女性の方が、腰痛有訴リスクが1.02倍有意に高くなるという。
女性は経済的な不安定さの影響を受けやい
 近年、地域レベルの「社会経済状況(SES)」が、健康の社会的決定要因のひとつとして注目されている。なかでも地域レベルの失業率は、労働者人口で死亡率やうつ症状などと関連することが報告されており、政策などによって修正可能な地域レベルの重要な指標となっている。

 失業率が高くなると、経済的な不安が"伝染"してしまい、その結果、医療機関への受診を控えてしまうことが原因として考えられるという。

 また、女性の方が失業率の影響を受けやすいのは、女性の方が男性と比較して社会的に低い職位が多く、いまだに結婚や出産にともなう離職が、他のOECD諸国と比較しても多いことにより、経済的な不安定さの影響を受けやいからだとが考えられる。

 「失業率の高い都道府県で、予防を含めた腰痛への積極的な介入をすることが重要で、雇用に関する男女格差の是正も、腰痛対策では重要であると考えられる」と、研究グループは述べている。

東北大学大学院歯学研究科
The contextual effect of area-level unemployment rate on lower back pain: A multilevel analysis of three consecutive surveys of 962,586 workers in Japan(International Journal of Environmental Research and Public Health 2019年10月20日)

[Terahata]