保健指導にインセンティブを 
世界の1億人の運動量を増やす「Vitality」の戦略

2018年12月12日
 生活習慣を改善し運動量を増やすためにインセンティブ(動機付け)が必要――。
 日本を含む10ヵ国以上でグローバルに事業を展開する企業が、国際的な健康増進プログラム「Vitality」を展開している。
 このほど「2025年までに世界の1億人の運動量を20%向上させる」という意欲的な予測を発表した。
運動量を増やすと特典(リワード)を得られる
 健康増進プログラム「Vitality」は、世界17の国と地域で利用されている。保険加入者に、健康増進につながる日常的な活動を、最新のウェアラブル技術を備えた機器で記録・送信してもらい、運動促進をはかりながら保険料負担の軽減につなげようという独自のプログラムだ。

 そのうち「アクティブチャレンジ Apple Watch」は、アップル社製の運動量や心拍数などを計測できる多機能のスマートウォッチ「アップルウォッチ」を提供する運動増進プログラム。

 参加者にとって、運動をする習慣を身につけ、運動量を増やすと特典(リワード)を得られるメリットがあり、保険会社にとっては、保険加入者の病気のリスクが下がれば、保険料の支払いを抑えられるというメリットがある。

 「Vitality」を提供している、南アフリカに本拠地を置く金融サービス会社「ディスカバリー」は、10ヵ国以上でグローバルに事業を展開しており、生命保険や貯蓄投資商品、ウェルネス分野で強みをもつ。
報酬型のプログラムが行動変容を促す
 「Vitality」は海外ではすでに実績を出している。カリフォルニア州サンタモニカに本部を置く独立非営利団体である「ランド研究所」の欧州支部の調査によると、「アクティブチャレンジ Apple Watch」の参加者の運動レベルは平均で34%上昇したという。

 この研究は、2015〜2018年に英国、アメリカ、南アフリカに在住する42万2,643人を対象として行われた。運動レベルの増加は、南アフリカ(44.2%)、米国(30.6%)、英国(27.7%)の順に高かった。

 参加者では、運動レベルが上昇しただけでなく運動時間も増え、運動をする日は月平均で南アフリカで4.5日、英国で5.7日、米国で1.8日増えたという。プログラムは24ヵ月続けられ、運動レベルの増加が持続的にみられた。

 「報酬型のプログラムが健康促進につながる行動変容を促すという結果になりました。運動を続けることで利益が増す運動プログラムは、参加者のやる気や意欲を引き出します。不健康と判定されていた参加者でも、インセンティブにより顕著な行動変容がみられました」と、研究者は指摘する。
7年間で世界の1億人の運動量を向上
Vitalityのアップルウォッチを使った研究
 こうした研究をもとに、Vitalityではこのプログラムに参加する各国の保険加入者で、2025年までに世界の1億人の運動量を20%向上させるという、大胆な予測を出している。

 「運動量の増加が1年間継続できれば、血圧や血糖値、コレステロール値を改善でき、心肺機能を高め、ひいては医療費の低減につながる可能性があります」と、Vitalityでは予測している。

 これは、運動不足が原因のひとつとされる生活習慣病の急速な拡大を阻止するため世界保健機関(WHO)が提言している「運動推進グローバル行動計画」の流れを汲むものだとしている。
日本でも「Vitality」を展開 住友生命が保険を発売
 「Vitality」は日本でも導入されている。住友生命は、2018年7月に、健康増進型保険"住友生命「Vitality」"を発売した。

 住友生命やソフトバンクなどが共同で、IoTを活用して健康増進をはかる「Japan Vitality Project」を2016年7月に開始し、「Vitality」の日本市場への導入を進めている。

 "住友生命「Vitality」"は、「加入後毎年の健康診断や日々の運動など、継続的な健康増進活動を評価し、保険料が変動する」ことにより、「リスクそのものを減少させる」ことを目的とした健康増進型の保険。従来の「加入時またはある一時点の健康状態をもとに保険料を決定し、病気などのリスクに備える」という生命保険とは一線を画している。

 また、「Vitality」の理念に共感するパートナー企業と提携し、加入者向けの特典として、さまざまな商品・サービスを割引価格で提供している。2018年12月現在、運動具メーカーやフィットネスクラブ、コーヒーショップ・チェーンなど11社が参加している。

 スマートウォッチ「アップルウォッチ」を提供する「アクティブチャレンジ Apple Watch」も展開している。

 このプログラムに参加した会員は、アップルウォッチで歩数や心拍数を測定しながらウォーキングなどに取り組む。24ヵ月間にわたり、毎月の運動の達成状況に応じて仮想コイン(特典)を受け取ることができ、コインの価値は最大で2万4,000円分になる。利用者は健康増進に取り組むことでアップルウォッチも手に入れることができる。

健康増進型保険 住友生命「Vitality」
Assessing the role of incentives in promoting physical activity(ランド研究所 2018年11月27日)
Incentives and physical activity: An assessment of the association between Vitality's Active Rewards with Apple Watch benefit and sustained physical activity improvements(ランド研究所 2018年11月27日)
Vitality(ディスカバリー)

[Terahata]