脳卒中は暑い夏に増える 日常生活の注意点と脳卒中予防10ヵ条

2018年07月19日
 気温の高い夏に脳卒中を発症する人が増える。脳梗塞などの脳卒中は、どの季節においても注意が必要だが、夏は生活スタイルを注意すれば防げるものも多い。
 脳梗塞の発作が起きたら、できるだけ早く治療を行うことがその後の経過に大きく影響する。脳梗塞の典型的な症状を知っておき、一刻も早く対処できるようにしておくことが大切だ。
脳卒中は夏に多い
 日本脳卒中協会は「脳卒中週間」に合わせて、「脳卒中セミナー」を各地で開催している。脳卒中は、脳の血管がつまったり、破れたりして、その先の細胞に栄養が届かなくなって、細胞が死んでしまう疾患だ。

 脳卒中は「脳血管障害」とも呼ばれ、血管が詰まるタイプ「脳梗塞」と血管が破れるタイプ「脳出血」「クモ膜下出血」に分けられる。このうち「脳梗塞」は、日本人で発症率が高い。

 「脳卒中は冬に多い」と思われがちだが、脳梗塞に限ると、むしろ7〜8月の夏に発生数が多くなっており注意が必要だ。
脱水による水分不足に注意
 国立循環器病研究センターによると、夏に脳梗塞が起こりやすい理由として挙げられるのが、脱水による体内の水分不足だ。夏には汗を多くかくため、それに見合った量の水分を補給していないと、体が脱水症状に陥り、血液が「ドロドロ状態」となる。その結果、血管がつまりやすくなる。

 また、寒さで血圧が上がりやすい冬とは逆に、夏は体の熱を放出しようと血管が拡張しやすくなる。この場合、生理機能が低下している人や、降圧剤などを服用している人は、血管拡張のために血流が遅くなり、血栓ができやすい状態になる。

 さらに飲酒は尿量を増加させ脱水の原因になる。これらが重なると夜間に脳梗塞を発症しやすくなる。
糖尿病や高血圧は脳卒中の危険因子。しかし脳卒中は予防が可能だ。
日本脳卒中協会は脳卒中の啓発動画を公開している。
糖尿病の人は脳梗塞のリスクが2〜4倍に上昇
 脳梗塞は突然起こり、命を奪うこともある恐ろしい病気で、命は助かっても麻痺などのために不自由な生活を強いられることがある。発症するとしばしば長期の入院が必要となる。

 脳卒中の実態解明を目指して、福岡県久山町の全住民を対象に1961年に始まった久山町研究では、40歳以上の住民のほとんどすべてが毎年健康診断を受けている。

 久山町研究では、糖尿病のある人は、糖尿病でない人の2〜4倍、脳梗塞を発症しやすいことが分かった。糖尿病の人の脳梗塞発症率は年を追うごとに改善しているが、それでもリスクはかなり高い。

 脳梗塞は動脈硬化のために血液が流れなくなって起こる病気であり、糖尿病はその動脈硬化の進行を早めてしまうからだと考えられている。

 脳梗塞の発作を起こすと、多くの場合で片麻痺などの後遺症が残る。介護が必要となった原因疾患の第1位であり、寝たきりを含む重い介護の原因にもなる。
こまめな水分補給が重要 飲酒は要注意
 とくに暑い夏は、就寝中に脱水が起こりやすい。眠っている間に平均するとコップ1杯(200mL)程度の汗をかいている。気温の高い夜には、それ以上の汗をかくことも多い。また眠っているときは、一般に血圧が低下するため、血栓ができやすい状態になっている。

 水分を摂取しても、体全体に浸透するまで約20分の時間がかかる。水を飲んでも、すぐに血液の流れが良くなるわけではない。また、気付かないうちに、皮膚などからも水分は蒸発する。

 脱水症状にならないよう、汗をかいていなくても、こまめな水分補給が重要だ。就寝前には大量の飲酒をさけ、コップ1杯の水を飲もう。
脳卒中予防10ヵ条
日本脳卒中協会 脳卒中を予防するための10ヵ条
 脳卒中は、高血圧や糖尿病、食生活の乱れ、運動不足などが続くと血管が少しずつ傷み、動脈硬化が進行すると発症しやすくなる。このことから、脳卒中の予防にはこれらの脳卒中を起こしやすくする状態(危険因子)を早めに改善しておくことが大切だ。

 脳卒中は危険因子を除去することで予防できる。日本脳卒中協会は左記の「脳卒中予防10ヵ条」の普及に努めている。
脳梗塞の発作が起きたら、できるだけ早く治療を
 脳梗塞の主な原因は動脈硬化だ。動脈硬化が進行して、脳へ続く血管の壁にコレステロールなどの成分がたまり、プラークという膨らみができ、血管が狭くなる。

 そのプラークが脳の血管の内部を塞いで血流を妨げたり、プラークの中に出血が生じたりすると、プラークが壊れて血栓が作られる。その血栓が脳まで流れて行き脳梗塞を起こす。

 万が一、脳卒中を発症した場合でも、急性期治療は進歩しており、少しでも早く治療を受ければ救命や後遺症の低減を得られる。

 国立循環器病研究センターは、3つの症状をより簡潔に示した「FAST(ファスト)」という標語を呼びかけている。このうちひとつでも該当すれば脳卒中を疑い、すぐに救急車を呼ぶよう注意を促している。

 脳梗塞の発作が起きたら、できるだけ早く治療を行うことがその後の経過に大きく影響する。脳梗塞の典型的な症状を知っておき、一刻も早く対処できるようにしておくことが大切だ。
国立循環器病研究センター 脳卒中啓発ポスター
早めの対応が、命を守り、後遺症を減らす
 「突然、片方の手に力が入らなくなる、持っているものを落としてしまう」「突然、どちらかの手足がしびれる」「突然、呂律が回らなくなる、言葉が出なくなる」。でも、しばらくするとこのような症状が消えてしまう。これは脳卒中の前触れ発作である「一過性脳虚血発作」(TIA)である可能性がある。

 「一過性脳虚血発作」では、血管に血栓がつまっても、短時間のうちに血栓がとけて血流が再開するため、脳梗塞の症状が短い時間しか現れない。

 しかし、一過性脳虚血発作は本格的な脳梗塞の前兆なので、決して安心してはいけない。この発作を起こした人の、3〜4割が脳梗塞を起こすという報告がある。特に48時間以内が危険だ。

 前触れ発作がおきたら、様子をみずに、すぐ医師に相談しよう。一刻も早く、神経内科や脳神経外科など脳卒中の専門医がいる医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが明暗を分ける。

国立循環器病研究センター
久山町研究(九州大学大学院 医学研究院)
脳卒中の予防と患者・家族の支援を目指して(日本脳卒中協会)
動画で学ぶ脳卒中(日本脳卒中協会)
脳卒中になったら、どの病院へ行けば良いのでしょうか? 脳卒中に対応する医療機関や施設(日本脳卒中協会)
[Terahata]