糖尿病リスクを減らすためには「運動を継続」することが必要

2017年12月14日
 ウォーキングなどの運動は継続することが重要だ。運動する習慣のない人でも、運動を始めて「全身持久力」を向上させると、糖尿病リスクを下げられることが、23年間の追跡調査で明らかになった。運動強度を高めると、死亡リスクを下げられることも、大規模調査で確かめられた。
運動をすると血糖値の上昇を抑えられる
 「全身持久力」の基準を満たしていると、年齢を重ねてから2型糖尿病を発症するリスクを抑えられることが、東北大学が男性2,235人を最大23年間追跡して調査した研究で、明らかになった。持久力の基準を満たしていなくとも、その後に運動で持久力を高めると、糖尿病リスクは上昇しないという。

 全身持久力は、体力をかたちづくる要素のひとつで、持久力やスタミナなどとも呼ばれる。ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの有酸素運動によって高めることができる。文部科学省の新体力テストでは、シャトルランニングが全身持久力の測定項目となっている。シャトルランニングは、等間隔で引かれた2本の線のあいだを、合図の音に合わせて走る種目だ。

 東北大学の研究チームは、男性2,235人を対象とした最大23年間の追跡調査を行い、全身持久力の基準を数年間満たしていると、その後の2型糖尿病発症のリスクが低いことを明らかにしたと発表した。

 2型糖尿病の多くで、血糖を下げるインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が起こる。ウォーキングなどの運動によって全身持久力を高く保つと、インスリン抵抗性が改善するのに加え、筋肉が増えることでブドウ糖消費量が増え、血糖値の上昇を抑えられる。
全身持久力のない状態が続くと糖尿病リスクが40%上昇
 全身持久力を高く保つために、ウォーキングなどの運動が有効とされている。全身持久力の1つの参考値として、2013年に厚生労働省が公表した「健康づくりのための身体活動基準 2013」で設定された全身持久力の基準がある。

 これまでに、全身持久力の基準をみたしていない人は、満たしている人に比べ、その後の2型糖尿病の発症リスクは高いことが報告されている。しかし、どのくらいの期間、基準を達成すれば効果があるかはよく分かっていない。

 そこで研究チームは、全身持久力を複数回測定した男性2,235人を最大23年間の追跡を行った。初回の測定で基準を満たしているかを調べ、その後、運動を習慣化することで糖尿病の発症リスクにどう影響が出るかを調べた。

 その結果、継続的に全身持久力の基準を達成していなかったグループでは、2型糖尿病の発症リスクが上昇することが明らかになった。初回の測定で基準を満たしておらず、その後の測定でも満たさなかった人は、基準をずっと満たしている人に比べ、糖尿病リスクが40%上昇していた。
運動習慣のない人でも運動を始めれば効果を得られる
 また、最初の全身持久力が基準に到達していなくても、その後に運動を続け、数年間で継続的に基準を達成するようになると、初回からずっと基準を満たしている人に比べ、糖尿病リスクは同程度に抑えられることも明らかになった。

 これらから、運動をする習慣のなかった人でも、運動をはじめて数年間で全身持久力を向上させれば、糖尿病リスクの上昇を抑えられることが明らかになった。
 研究チームは「一時的に基準を達成することよりも、継続的に達成することのほうが2型糖尿病の発症リスクに対して影響が大きいことが示されました」と述べている。

 研究は、東北大学大学院医工学研究科の門間陽樹助教と永富良一教授(兼大学院医学系研究科)、東京ガス、医薬基盤・健康・栄養研究所が共同で行ったもの。詳細は科学誌「Journal of Epidemiology」オンライン版に発表された。
ウォーキングなどを続けると死亡リスクは低下
 ウォーキングなどの運動を続けると死亡リスクが低下することは、国立がん研究センターなどが実施している大規模調査「JPHC研究」でも確かめられている。

 「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

 研究チームは、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎、大阪に在住している50?79歳の男女8万3,454人を対象に、2012年までおよそ10年間追跡して調査した。

 運動には、肥満や心血管疾患を予防し、死亡のリスクを下げる効果がある。

 参加者の運動レベルを厚生労働省や世界保健機関(WHO)が定めている運動ガイドラインによって分類した。

 「テニス・ジョギング・エアロビクス・水泳などの激しい運動」を高強度の運動、「ウォーキングなど速足で歩く」および「ゴルフ・ゲートボール・庭いじりなどの軽・中程度の活動」を中強度の運動とし、それぞれの頻度と時間から参加者の運動量を判定した。
強度の高い運動をしている人ほど死亡リスクが低下
 死亡リスクを解析した結果、男性では、「運動をしていない群」に比べ、「中強度+少しの高強度の運動をしている群」では22%、「中強度+かなりの高強度の運動をしている群」では26%、それぞれ低下したことが分かった。

 中強度の運動のみをしている群に比べると、かなりの高強度の運動もしている群では、死亡リスクは19%減少していた。運動をどんなものでも継続していれば、死亡リスクを下げる効果があるが、男性では高強度の運動も加えると効果的であることが示された。

 一方女性では、「運動をしていない群」に比べ、「中強度+少しの高強度の運動をしている群」では34%、「中強度+かなりの高強度の運動をしている群」では36%、それぞれ死亡リスクが低下した。

 今回の研究では、強度の高い運動をしている人ほど死亡リスクが低下することが示された。8万人の日本人を対象とした調査なので、その信頼度は高い。

 「ウォーキングなどの中強度の運動だけでなく、もう少し強い活動を加えることで、健康の維持増進にさらなる効果が期待できます」と、研究チームでは述べている。

 高齢者などでは、高強度の運動が、けが、心臓への負担、ひざや腰への負担といった作用を及ぼすおそれもあるので注意が必要だが、「そうした危険が伴わない人は、なるべく運動の強度を高めて全身持久力を高めていくことが良い結果に結びつきます」としている。
東北大学大学院医工学研究科
Importance of Achieving a "Fit" Cardiorespiratory Fitness Level for Several Years on the Incidence of Type 2 Diabetes Mellitus: A Japanese Cohort Study(Journal of Epidemiology 2017年11月25日)
多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター 社会と健康研究センター)
Impact of moderate-intensity and vigorous-intensity physical activity on mortality(Medicine & Science in Sports & Exercise 2017年10月19日)
[Terahata]