1日1時間の活発なウォーキングが脳卒中などのリスクを30%低下
2017年05月08日
ウォーキングなどの運動や身体活動を毎日続けると、脳卒中などの循環器疾患の発症リスクを約30%低下できることが、約7万5,000人を約10年間追跡して調査した「JPHC研究」で明らかになった。
ウォーキングが循環器疾患を抑制する 7万人超を調査
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
運動や身体活動を多く行うと、肥満、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病を予防でき、さらには動脈硬化を改善でき、結果的に脳卒中や冠動脈疾患(心筋梗塞や心臓突然死)などの循環器疾患を予防できることが多くの研究で示されている。しかし、これらの研究は欧米のものが多く、生活習慣や遺伝因子が異なるアジア人に関する報告は少ない。
日本人などのアジア人は、欧米人に比べて脳卒中が多く、循環器疾患を予防するためにどの程度の身体活動量が必要かを、欧米の研究のみで判断するのは難しい。そこで研究チームは日本人を対象に循環器疾患の予防について調査した。
今回の研究では、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎などの9保健所管内に在住していた50?79歳の住民うち、循環器疾患およびがんの既往がなく、身体活動に関するアンケートに回答した7万4,913人を対象に、2012年まで追跡して調査した。
仕事や余暇中の身体活動に関する質問への回答から、1日の身体活動量(単位はメッツ・時)を計算した。身体活動量は運動強度(メッツ)と、それを時間でかけ合わせた「メッツ・時」で示される。たとえばやや速い速度のウォーキングの運動強度は5メッツに相当し、それを1日に1時間行うと5メッツ・時になる。
運動や身体活動の強度を体感であらわすと、「楽」に感じれば3メッツ(4km/時)、「やや楽」なら4メッツ(5km/時)、「ややきつい」なら5メッツ(6km/時)といった捉え方になる。どんな身体活動をするにしても、強度をメッツに換算して時間でかけ合わせると、身体活動量を客観的に把握できるようになる。
関連情報
循環器疾患のリスクが30%低下 少しでも運動することが有益
調査では追跡期間中に、3,345人が循環器疾患発症(脳卒中2,738人、冠動脈疾患607人)を発症した。今回の研究では循環器疾患の80%以上が脳卒中だった。日本人にとって脳卒中を予防することが、循環器疾患全体を予防するために非常に重要であることがあらためて示された。
身体活動量と循環器疾患のリスクとの関係を解析したところ、身体活動量が5メッツ・時に増えると急激に発症リスクが約30%程度低下し、さらに5~10メッツ・時に増えるとリスクの低下は最大になり、それより増えるとリスクの低下は維持されながら低下幅は減っていく傾向があることが判明した。全脳卒中、冠動脈疾患も同様の結果を示した。
性、年齢、喫煙状況、アルコール量、両親の循環器疾患の既往、座っている時間、睡眠時間などで調整を行っても、同じ結果になった。
身体活動量が増えれば増えるほど循環器疾患のリスクが低下し続けるというわけではなく、ある程度まで身体活動量が増えれば十分なリスク低下が得られることが判明した。今回の研究では、1日あたり5~10メッツ・時で最大のリスク低下が得られた。これはウォーキング2~4時間程度、ジョギング1~2時間程度に相当するという。
「これらを毎日することは難しいかもしれませんが、たとえこのレベルの身体活動量に達しなくても循環器疾患のリスクは低下するので、少しでも活動することは有益だと考えられます」と、研究者は述べている。
また、活動しすぎても有害になりうるという結果はみられなかったことから、日頃からしっかり活動をしている人が、身体活動量を1日5~10メッツ・時程度までに抑える必要はないという。ただし、過剰な身体活動がどのように影響するのかは現時点では不明であり、さらに研究を進める必要がある。
身体活動と循環器疾患の関連性を調べた今回の研究成果は医学誌「Circulation」に発表された。
Daily Total Physical Activity and Incident Cardiovascular Disease in Japanese Men and Women(Circulation 2017年4月10日)