「脂肪筋」は「プラス・テン」で減らす いまより10分多く運動しよう

2017年02月14日
 糖尿病リスクが高まる原因のひとつとして「脂肪筋」(筋肉内に溜まる脂肪)が注目されている。
 「脂肪筋」は、痩せていても代謝異常になりやすい「やせメタボ」の要因となる。「脂肪筋」を減らすためには、「運動」と「食事」の2つの対策が必要だ。
太っていなくても生活習慣病になりやすい人の特徴は?
 「脂肪筋」は、糖尿病の運動療法で、ぜひ知っておきたい新たなキーワードだ。

 「脂肪筋」が増えると、筋肉でインスリンがうまく作用せず、糖を取り込みにくい体質(インスリン抵抗性)になることが、順天堂大学代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授の研究で分かってきた。

 田村准教授は、1月に横浜で開催された第54回日本糖尿病学会関東甲信越地方会で、「運動と脂肪筋・インスリン抵抗性」と題し講演した。

 脂肪は皮下脂肪や内臓脂肪に蓄積すると考えられてきたが、それ以外の肝臓、筋肉、膵臓などにも第3の脂肪ともいうべき「異所性脂肪」として蓄積し、インスリン抵抗性やインスリン分泌に関わっていることがさまざまな研究で示されている。

 「脂肪筋」とは、筋肉の細胞の中に脂肪が過剰にたまった状態。「脂肪筋」になるとインスリン抵抗性になりやすい。そうなると、2型糖尿病やメタボリックシンドロームが悪化しやすくなる。

「やせメタボ」の人は「脂肪筋」が増えやすい
 日本に多い、太っていなくても生活習慣病(代謝異常)になりやすい「やせメタボ」の人は、「脂肪筋」が増え、筋肉でインスリンがうまく作用せず、糖を取り込みにくい体質になっている場合が多い。その結果、血糖値が上がりやすくなる。

 田村准教授らは100人以上の日本人男性を対象に調査を行い、太っていなくても代謝異常を生じている人は、筋肉の質が低下していることを明らかにした。

 さほど太っていない状態(体格指数=BMIが23以上25未満)でも高血圧、高血糖、脂質異常のどれかひとつでもある人は、異常がない人と比べ、インスリン作用で糖を取り込む筋肉の能力が20%ほど低かった。

 筋肉の質の低下は、「体力の低下」「活動量の低下」「内臓脂肪の蓄積」「高脂肪の食事」などと関連していることも判明した。

 高脂肪の食事をたった3日間摂るだけで、「脂肪筋」は増加し、体力と「生活活動量」が低い人では、より増加しやすいという。
「やせメタボ」を改善するために運動が必要
 太っていなくても代謝異常の起こりやすい人は、体重の減少に加えて、生活習慣に特に注意を払う必要がある。

 脂肪筋をつくらない代謝のいい体になるためには、「ふだんから活発なウォーキングを続け、体力を向上させる取り組みをすることが大切」と、田村准教授は言う。

 運動については、ウォーキングの量(生活活動量)を増やし、筋肉に負荷のかかる運動を取り入れて、体力を向上させることが勧められる。

 「生活活動量」はふだん歩いている量を意味するが、普通に歩くだけでは体力の向上はそれほど期待できない。

 「少しずつでもいいので、体を動かす習慣をつけることが大切。ただし、よく動くことで筋肉の"質"は高まるが、筋肉の"量"に対しては別のアプローチも必要」だという。
食事だけでは不十分 運動を加えると効果を得られる
 「加齢に伴い筋肉が減ると、基礎代謝も低下して、脂肪が体につきやすくなる。筋肉トレーニングで筋肉の量を増やすことが必要。40~50歳代までに運動を習慣化して欲しい」と、田村准教授は言う。

 また、糖尿病の治療では、食事と運動の両輪がそろうとはじめて効果を得やられるようになる。食事療法だけでは血糖が下がらないという人は、運動療法を併せて行うことが重要だ。

 田村准教授らが糖尿病患者を対象に2週間行った別の研究では、カロリー制限した食事療法だけでは脂肪筋はあまり減らなかったが、食事に運動療法を加えると脂肪筋は19%減少し、インスリン抵抗性も57%改善した。

 短期間の食事・運動療法により、「脂肪筋」を大きく減らし、インスリン抵抗性も改善できる可能性がある。
「プラス・テン」今より10分多く体を動かそう
 医薬基盤・健康・栄養研究所健康増進研究部の宮地元彦部長は、昨年11月に都内で開催された「食育健康サミット2016」で「肥満や糖尿病の予防・改善のための身体活動・運動」と題し講演した。

 厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」を策定し、身体活動と運動に関する普及啓発に取り組んでいる。

 身体活動の重要な指標となっているのはウォーキングの歩数だが、歩数はこの10年間で全ての年齢層で、1日あたり約1,000歩減少している。これをカロリーに換算するとおよそ1日あたり30kcalで、1年間続くと約1~1.5kgの体重増加に相当するので深刻だ。

 1,000歩のウォーキングに相当する運動に要する時間は10分程度だ。そこでアクティブガイドでは、「プラス・テン」(今より10分多く体を動かしましょう)をキャッチフレーズに定めている。

 ウォーキングなどの中強度の運動を「16~64歳は1日60分」「65歳以上は1日40分」、少なくとも週に3日以上行うことを目標にしている。
「プラス・テン」で歩数を1,000歩増やす
 「以前は、有酸素運動は30分以上続けて行わないと脂肪が燃えないことから、運動の時間が短いと意味がないと言われていました。しかし、脂肪筋の解消や健康づくりという視点から、細切れは必ずしも悪くなく、むしろ意識していない生活活動も重要ということが明らかになっています」と、宮地部長は言う。

 「プラス・テン」で10分歩けば、およそ1,000歩になる。生活の中で時間をみつけ、なるべく体を動かすようにすれば、ふだんの生活でトータル8,000歩程度に歩数を増やせる。
筋肉トレーニングを組み合わせると効果的
 糖尿病患者のための運動療法として、ウォーキングなどの有酸素性運動に、筋肉に負荷をかける筋肉トレーニングを組み合わせることも提案している。

 手軽に取り組める筋肉トレーニングとして、▽スクワット、▽上体起こし、▽上体反らし、▽腕立て伏せ――などがある。

 加齢に伴って筋肉が減るのを「サルコペニア」(筋肉や心身機能の低下)と呼ぶ。じわじわ進み自覚症状は乏しいが「同じ仕事なのに以前より疲れやすい」「少しの段差につまずく」などが兆候だという。

 「サルコペニア」を予防するためにも、中高年の人が減量をする際には、筋量や筋力が低下しないように注意する必要がある。

 宮地部長は筋肉トレーニングについて、「(1)鍛える筋や関節を意識して、(2)辛いと感じる程度で限界までやらない、(3)最低でも週2回、できれば毎日、(4)呼吸は止めないようにする、(5)体調の悪い時には、無理をせず、(6)疾患や痛みがあったら医師に相談をすることを念頭に」――といった注意点をアドバイスしている。

第54回日本糖尿病学会関東甲信越地方会
Effects of Diet and Exercise on Muscle and Liver Intracellular Lipid Contents and Insulin Sensitivity in Type 2 Diabetic Patients(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2005年6月1日)
Relation Between Insulin Sensitivity and Metabolic Abnormalities in Japanese Men With BMI of 23-25 kg/㎡(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2016年10月1日)
「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について(厚生労働省)
(Terahata)