「やせメタボ」は生活習慣病になりやすい 「筋肉のインスリン抵抗性」が影響
2016年08月16日
日本に多い、太っていなくても生活習慣病(代謝異常)になりやすい「やせメタボ」の人は、筋肉でインスリンがうまく作用せず、糖を取り込みにくい体質(インスリン抵抗性)であるという研究を、順天堂大学の田村好史准教授らが発表した。
「ふだんから活発なウォーキングを続け、体力を向上させる取り組みをすることが大切」と研究者は指摘している。
「ふだんから活発なウォーキングを続け、体力を向上させる取り組みをすることが大切」と研究者は指摘している。
インスリン抵抗性が糖尿病やメタボの原因に
「肥満」や「やせ」といった体型の違いは、身長と体重をもとに計算する「BMI」を指標に判定される。海外では肥満の基準は「BMI30以上」だが、日本では「BMI25以上」。最近の研究で、日本人を含むアジア系ではBMI25未満でも、2型糖尿病などの生活習慣病(代謝異常)にかかる危険性が高いことが明らかになりつつある。
そんな中、順天堂大学代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授らが100人以上の日本人男性を対象に調査を行い、太っていなくても代謝異常を生じている人は、筋肉の質が低下していることを明らかにした。
筋肉の質の低下は、「体力の低下」「活動量の低下」「内臓脂肪の蓄積」「高脂肪の食事」などと関連していることも判明した。
「インスリン抵抗性」は、膵臓から分泌され、血糖を下げるホルモンであるインスリンの感受性が低下して効きにくくなった状態を指す。主に肥満や内臓脂肪蓄積に伴いあらわれ、2型糖尿病だけでなく、メタボリックシンドロームの原因のひとつになる。
研究では、軽度の肝機能異常や肝脂肪の蓄積は、筋肉のインスリン抵抗性のマーカーになることが示された。
この研究は、順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」オンライン版に発表された。
非肥満の日本人を対象に、インスリン抵抗性などを調査
脂肪の多くは皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられるが、それ以外の別の場所(異所)にも蓄積される。そのような脂肪を「異所性脂肪」と呼ぶ。
インスリンには肝臓や骨格筋に作用して血糖値を低下させる作用があるが、それらの臓器に異所性脂肪が蓄積すると(脂肪肝、脂肪筋)、溜まった脂肪が毒性を出して、インスリン抵抗性が生じると考えられている。
これまでの研究で、肥満でなくとも肝臓や骨格筋といったインスリンが作用する臓器に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が生じることや、アジア人は痩せていても脂肪肝になりやすいことなどが示されているが、日本人での詳細は不明だった。
そこで研究チームは、日本人の非肥満者を対象に、インスリン抵抗性と代謝異常、異所性脂肪蓄積の関連性などについて調査した。
研究チームは、BMIが23~25で、心血管代謝リスク因子(高血糖、脂質異常症、高血圧のいずれか)をもっていない人28名、1つもっている人28名、2つ以上もっている人14名の計70名の日本人を対象に調査を実施。
この他に、BMIが21~23で心血管代謝リスク因子を持たない人24名(正常群)、肥満(BMIが25~27.5)でメタボリックシンドロームを合併している人14名(肥満MS群)の測定も行った。
肝臓及び骨格筋のインスリン抵抗性については、「2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法」という方法を導入し、精密に測定した。
この方法は、安定同位体でラベルされたブドウ糖とインスリンを点滴で持続的に投与することで、肝臓と骨格筋でのインスリンの効き具合をそれぞれ別個に計測するもので、今回のように非肥満者を中心に100人を超える規模で行ったのは世界的にはじめてだという。
高血糖、脂質異常症、高血圧
リスクがあると「骨格筋のインスリン抵抗性」が亢進
リスクがあると「骨格筋のインスリン抵抗性」が亢進
「活発なウォーキング」「生活活動量の増加」で体力アップを
太っていなくても代謝異常の起こりやすい人は、体重の減少に加えて、生活習慣に特に注意を払う必要があるという。
運動については、ウォーキングの量(生活活動量)を増やし、筋肉に負荷のかかる運動を取り入れて、体力を向上させることが勧められる。
「生活活動量」はふだん歩いている量を意味するが、普通に歩くだけでは体力の向上はそれほど期待できない。
持久的な運動能力は、強度をある程度高めた「活発なウォーキング」や「ジョギング」などで高めることができるという。
「脂肪肝や今まで無視されてきたような軽度の肝機能異常は、骨格筋のインスリン抵抗性を知る簡便なマーカーとして有用と考えられ、今後、健康診断をはじめとした予防医学への活用も期待される」と、田村准教授は述べている。
(Terahata)