音楽を聴きながらウォーキング 自律神経の活動が改善し心臓もリラックス

2016年02月26日
 音楽を聴きながらウォーキングなどの運動をすると、「自律神経」の活動バランスが整えられ、運動後にリラックス効果を得られることが、東北大学の研究で明らかになった。
なぜウォーキングをすると動悸や血圧上昇が起こやすいのか
 「自律神経」とは、無意識に体内の環境を調整している神経のネットワークだ。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」のふたつがあり、交感神経は身体を活発に動かすときに働き、副交感神経は身体を休めるときに働く。

 交感神経が活発になると、心臓では心筋収縮力の増強と心拍数の増加が起こり心拍出量が増大する。これに対して副交感神経が活発になると、心筋収縮力が減弱し心拍数が減少する。

 運動を行うと、短期的には交感神経の活動が増加し、副交感神経活動が低下する。このふたつはバランスを取り合って車のアクセルとブレーキのような働きをするが、交感神経が優位になると心筋収縮力の増強や心拍数の増加が起こり、動悸を感じたり、末梢血管の収縮によって血圧が上昇する場合がある。

 ウォーキングなどの運動をするとストレスや緊張が高まり、心身が疲弊してしまうのは、交感神経の活動が強くなりすぎるからだ。そうした場合は、気分を落ち着けるような音楽を聴きながら運動をすると、副交感神経の活動を高められ、自律神経のバランスが整えられることが、東北大学の研究チームによって明らかになった。
気分を落ち着かせる音楽が自律神経の活動を調整
 気分を落ち着かせるような音楽には、自律神経の活動を調整し、特に副交感神経活動を高める効果がある。研究チームは、音楽を聴くと副交感神経の活動が高まり、リラックス効果を得られることに着目した。

 研究には26人の健康な人が参加した。参加者は、(1)何もしないで座っている(安静セッション)、(2)気分を落ち着かせる音楽を聴きながら座っている(音楽セッション)、(3)「ややきつい」と感じる運動を行う(運動セッション)、(4)音楽を聴きながら運動を行う(併用セッション)、という4つのセッションをそれぞれ別の日に15分間行った。

 研究チームは、参加者の「心拍変動」を解析し、交感神経と副交感神経の働きを調べた。心拍は「ゆらぎ」をもっており、交感神経が働くと拍動の間隔が短くなり心拍数が上がり、副交感神経が働くと拍動の間隔が長くなり心拍数が下がる。心拍変動を調べてゆらぎの周波数成分を解析すると、自律神経の活動を測定することができる。

 その結果、音楽セッションでは副交感神経活動が有意に増加し、運動セッションでは副交感神経活動が低下したが、音楽を聴きながら運動した併用セッションでは、終了後の副交感神経活動は開始前の値とほぼ同じに回復した。

 つまり、気分を落ち着かせる音楽を聴きながら運動をすると、副交感神経の活動の低下を抑えられることが明らかになった。
不整脈や心臓突然死などの予防にも役立つ可能性
 ウォーキングなどの運動をすると、交感神経の興奮状態がなかなかおさまらなくなり、動悸、息切れ、胸の圧迫感や痛み、あるいは不整脈などの症状があらわれることがある。心臓の機能には異常がないため心電図などの検査を受けても異常が認められないことが多いが、こうした症状は運動を続ける上で妨げとなる。

 そうした場合は、音楽を聴きながら運動をすると、心臓の動きが安定する可能性がある。運動によるストレスをためないためにも、音楽を聴きながらウォーキングを行うと効果的だ。

 自律神経の活動バランスが整えるために「体の力を抜いて深呼吸をする」「ストレッチをして体のこわばりをほぐす」といった方法が効果的だが、これに「気分を落ち着けられる音楽を聴く」ことを加えるとさらに効果が高まりそうだ。

 研究は、東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野の小川佳子助教、上月正博教授らの研究グループによるもので、米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に発表された。

 「心臓病の危険性のある人が急に運動を始めると、運動後の副交感神経活動の回復の反応が遅れやすく、不整脈や心臓突然死などの深刻な症状が起こりやすい。運動を習慣的に継続すると自律神経の活動バランスは改善するが、音楽を聴く習慣を加えるとさらに効果的である可能性があります」と研究者は述べている。

東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野
Music Attenuated a Decrease in Parasympathetic Nervous System Activity after Exercise(PLOS ONE 2016年2月3日)
(Terahata)