摂食障害の最新情報 女性の「やせ願望」が危険な拒食症をまねく

2016年01月29日
 女性が「やせ願望」やダイエット指向は「神経性やせ症」(拒食症)をまねくおそれがある。摂食障害の治療体制の整備は進んでいる。やせたモデルのメディア露出が摂食障害を助長しているおそれがあると、海外では規制する動きが出できた。
女性の「やせ」は増えている
 多くの女性が「やせ願望」やダイエット指向をもっている。多くはやせる必要がないのに、偏った食生活を送ったり極端なダイエットを繰り返している。

 若い女性の「やせ」は多くの健康問題のリスクを高め、さらに若い女性や妊婦の低栄養問題は「次世代の子ども」の生活習慣病のリスクを高めると危惧されている。

 若い女性で「やせ」が多いことは厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」で示されている。

 BMI(体格指数)が18.5未満の「やせ(低体重)」の女性の比率は、約30年前(1988年)は15.1%だったが、2013年調査では20歳代女性では21.5%、30歳代では17.6%、40歳代では11.0%にそれぞれ増えた。
 「やせ願望」が深刻化すると、「神経性やせ症」(拒食症)や「神経性過食症」をまねくおそれがある。いずれも摂食障害だが、前者は太ることを恐れて食物を避けるために極端な痩せを伴う。後者は週に数回・数ヵ月間にわたる過食と、体重増加を防ぐための不適切な代償行動(嘔吐、下剤の使用など)の両方が存在し、拒食症よりは発症が遅い傾向がある。
「やせ願望」が強まると摂食障害に
 摂食障害は、食事の量や食べ方など、食事に関連した行動の異常がみられ、体重や体型のとらえ方などを中心に、心と体の両方に影響が及ぶ病気。摂食障害では、必要な量の食事を食べられない、自分ではコントロールできずに食べ過ぎる、いったん飲み込んだ食べ物を意図的に吐いてしまうなど、患者によってさまざまな症状がある。

 摂食障害の正確な患者数は不明だが、厚労省の研究班が1998年に実施した疫学調査では約2万3,000人と推計された。1980年からの20年間に約10倍に増加した。また、2009~2010年の厚労省研究班による調査では、女子中学生の100人に2人が摂食障害とみられている。

 最近の研究では、若い女性や妊婦の低栄養が、その子どもの将来の高血圧や糖尿病などのリスクを高めると報告されている。妊娠中のみならず、妊娠する前からの適切な食生活の確保が、将来の日本の子どもたちの健康にとって大切だ。
BMIが15未満になると危険
 身体症状としては、正常下限を下回り脂肪組織が病的に減少した症候があり、成人ではBMI(体格指数)が15未満になると最重度と診断される。低血圧、徐脈、低体温、無月経、便秘、下肢の浮腫、贅毛、皮膚の乾燥、手掌や足底の黄染などがあらわれることが多い。

 摂食障害は、うつ病や不安症、強迫症など心の病気を伴うことが少なくない。また、低栄養や繰り返す嘔吐や下痢などのために体にも異常がみられるようになる。

 病識がないため親や医療者との関係が悪化することがあり、体力低下に伴い学業や仕事の能率の低下もみられるようになり、日常生活にも支障が生じる。

 治療法は基本的な心理的サポートや栄養療法、薬物療法が中心になる。病気に対する知識を身につける心理教育や、健康的な食生活に改善するためのアドバイスなどが行われる。

 栄養療法では、栄養士によるアドバイスや、必要な場合は食事以外の補助的な栄養補給などが行なわれる。心理療法では認知行動療法や家族療法などの専門的な治療が行なわれることもある。
「摂食障害全国基幹センター」を開設
 拒食症や過食症などの摂食障害は、適切な治療を受けないと死に至ることもある深刻な病気だが、専門医や専門的な治療ができる医療機関は少ない。

 この現状を打開しようと、厚生労働省は2014年に治療や研究の拠点として全国に「治療支援センター」を整備することを決めた。

 センター指定は厚生労働省による補助事業。国は国立精神・神経医療研究センターを基幹組織に指定し、治療プログラムや指針の開発を行う「摂食障害全国基幹センター」を開設。全国5ヵ所の治療支援センターの整備を目指している。

 計画では、精神科や心療内科の外来があり、救急対応もできる総合病院をセンターに指定する。入院治療が必要な急性期の患者を受け入れるほか、地域のクリニックなどからの相談に応じて治療の助言をしたり、患者や家族への支援、地域住民への啓発活動を担ったりする。600万円の運営費は国と都道府県が折半する。

 支援センター開設のきっかけとなったのは、摂食障害センター設立準備委員会(現在の日本摂食障害協会)が行った3年にわたる署名活動。2013年の時点で全国から2万4,000人の著名が寄せられた。
「摂食障害治療支援センター」を各地に開設
 これを受けて静岡県は昨年10月に「摂食障害治療支援センター」を浜松医科大精神神経科に開設。専門医療機関の少ない摂食障害に対する総合的な支援体制を構築し、早期発見と早期回復につなげられる仕組みづくりに取り組んでいる。

 宮城県も東北大学病院を「摂食障害治療支援センター」に指定。東日本大震災の被災者が発症するケースに備え、国の補助事業に手を挙げた。摂食障害の治療体制の確立を目指している。

 九州大学病院は昨年12月に心療内科に「摂食障害治療支援センター」を開設。センターは、入院治療が必要な急性期の患者を受け入れるほか、地域の精神科病院などに治療の助言や指導を行う。

 センターは治療と相談支援に加え、関係機関との連携や助言指導、摂食障害への理解を深める啓発活動も行う。専従の治療支援コーディネーターを配置し、医療関係者や県、患者や家族らによる対策推進協議会も設立する。
やせたモデルのメディア露出が女性の生活スタイルに影響
 女性の「やせ」が増えている背景として、食生活や生活スタイルの多様化に加えて、各種メディアに露出しているモデルやタレントがやせているため、「やせているほうがいい」という価値観が普及・氾濫していることが影響していると考えられる。

 米国ではおよそ3,000万人が摂食障害をもっており、米国人女性の1%が拒食症を発症しているとみられている。拒食症の発症数は世界ではおよそ200万人に上る。

 ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、「危険なほどやせているモデルが、ファッションショーや写真集のモデルになることを禁止することが、女性の深刻な健康問題である拒食症を予防するために効果的ではないか」と指摘している。

 ハーバード大学は、ブリン オースティン教授などが中心になり「摂食障害を予防する戦略的トレーニング」(STRIPED)を設立。BMIが18未満のモデルの雇用を禁止する規則を設けることを、米国労働安全衛生局(OSHA)に呼びかけている。

 オースティン教授によると、ファッションモデルの平均的なBMIは、世界保健機構(WHO)が医学的に危険とみなしている成人のBMIの基準である16を下回っている。
極端にやせたモデルに健康証明書の提出を義務付け
 フランス国民議会は昨年12月に、極端にやせたモデルに対し、医師による健康証明書の提出を義務付ける法案を可決した。違反者には7万5000ユーロ(約1,000万円)の罰金が科される可能性がある。

 同法案にはさらに、実際よりやせたり太ってみせるために加工や画像編集を施した写真に対し、その旨の注記を義務付ける条項も含まれている。

 マリソル トゥーレーヌ厚生・女性権利大臣は「若い女性はファッション・モデルを美容のお手本ととらえやすい。不健康な体重の女性が影響力をもつと、摂食障害が増えるおそれがある。モデル自身が健康的な食生活を訴えることも必要」と述べている。

摂食障害情報 ポータルサイト(摂食障害全国基幹センター)
摂食障害全国基幹センター(国立精神・神経医療研究センター)
日本摂食障害学会
日本摂食障害協会
A call to regulate starvation of 'Paris thin' models(ハーバード公衆衛生大学院 2015年12月21日)
(Terahata)