魚を食べると体脂肪が燃焼するメカニズムを解明 EPAとDHAの効果
2015年12月21日
魚油を多くとると、太りにくくなる――。EPAやDHAを含む魚油の摂取が、脂肪燃焼細胞である「褐色脂肪細胞」の増加を促し、体脂肪の減少や体温上昇をもたらすことを、京都大学の研究チームが突き止めた。
なぜ日本型の食生活は健康的なのか
肥満は世界中で増加しており、過体重と肥満の人の数は2013年時点で21億人に達しているという。肥満は、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームの原因になる。肥満を予防・改善する効果的な方法が求められている。
健康に良く長寿社会に貢献しているとされている日本の食事スタイルの特徴は、魚介類を多く摂取することだ。
魚油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、動脈硬化を予防したり中性脂肪値を改善するなど、さまざまな生理作用があることが知られている。
これに加え得て、魚油(DHA、EPA)が体脂肪の消費を促進し、痩せやすい体をつくるのに欠かせないことを、京都大学の研究グループが実験で突き止めた。
魚油が脂肪を分解する「ベージュ細胞」を増やす
研究グループは、魚油がエネルギー代謝に及ぼす影響を、肥満マウスを使った実験で調べた。
ヒトの体には、脂肪を貯めこむ「白色脂肪」(WAT)と、脂肪を分解し熱を産生する「褐色脂肪」(BAT)がある。
最近の研究では、「白色脂肪」が褐色化を起こし、「褐色脂肪」のような機能のある第3の脂肪である「ベージュ細胞」に変化することが分かってきた。ベージュ細胞の減少や退縮が中年太りの原因であり、逆に発現を誘導したり活性化すると肥満を改善できると考えられている。
「褐色脂肪」には、エネルギーを作り出す細胞器官であるミトコンドリアが多くあり、この器官に含まれる「UCP1」と呼ばれるタンパク質が熱を産生している。「ベージュ細胞」を増やし肥満を改善するために、UCP1の発現を高めると効果的だ。
研究グループがマウスに高脂肪食あるいは魚油添加食を103週間与えたところ、魚油添加食を与えたマウスでは高脂肪食を与えたマウスに比べ、酸素消費量が増え体重が5~10%減少し、体脂肪の蓄積が15~25%減少するという結果になった。
詳しく調べると、魚油を摂取したマウスの「ベージュ細胞」では、UCP1を発生させる受容体が増え、UCP1の発現量が4倍に増えていることが分かった。
魚を食べてエネルギー代謝を向上、メタボを改善
研究グループは、褐色脂肪の交感神経の活動を促すとUCP1の発現を増やせることに着目。魚油を摂取すると、脂肪組織で神経伝達物質のノルアドレナリンが放出され、交感神経が活性化することを突き止めた。
次に、この反応を引き起こす成分として、UCP1を誘導する作用をもつトウガラシの辛味成分「カプサイシン」の受容体として知られている「TRPV1」に着目。TRPV1が欠損したマウスに魚油を与えても、交感神経の活性化が起こらないことを確かめた。
これらの結果から、魚油によるエネルギー代謝の向上は、胃や小腸に分布するTRPV1を介した交感神経の活性化と、それにより引き起こされる「褐色脂肪」、特に「ベージュ細胞」の発現促進によってもたらされることを確かめた。
研究は、京都大学農学研究科の河田照雄教授、金珉智教務補佐員、後藤剛准教授、自然科学研究機構生理学研究所・総合研究大学院大学の富永真琴教授、内田邦敏助教らの研究グループによるもので、科学誌「Scientific Reports」オンライン版に発表された。
「日本型の食生活は、魚介類を豊富に含む食材を多用することが特徴のひとつ。今回の研究で魚を食べると体に良いことが、代謝のメカニズムから明らかになった。健康に良い日本型の食生活を促進し、魚介類の消費を拡大することが、メタボリックシンドロームの改善と健康寿命の延伸につながる可能性がある」と研究者は述べている。
Fish oil intake induces UCP1 upregulation in brown and white adipose tissue via the sympathetic nervous system(Scientific Reports 2015年12月17日)
(TERA)