運動不足の人はアルコール依存のリスクが2倍に上昇 運動指導に期待

2015年12月08日
 運動不足の人はアルコール依存になる割合が2倍に上昇するという調査結果が発表された。
運動習慣とアルコール依存の関連を解明
 運動不足の人はアルコール依存になる割合がおよそ2倍に上昇することが、米国の大規模調査で明らかになった。調査結果は11月にシカゴで開催された米国公衆衛生学会の学術集会で発表された。

 世界保健機関(WHO)によると、世界で330万人がアルコール乱用が原因で死亡している。20~39歳の若い世代でも全死亡のおよそ25%がアルコールが影響しているとみられている。

 日本でも1日にアルコール60gを超えて飲んでいる「多量飲酒」の人の割合は成人の4.8%に上る(健康日本21[第1次]結果)。

 ジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院の研究チームは、2001~2003年に実施された全米生活調査(NSAL)の全国調査の結果を解析。5,002人のアフリカ系米国人の生活スタイルと精神疾患との関連を調べた。

 アルコール依存については、米国精神医学会(APA)が策定した精神疾患の診断分類である「DSM-5」を用い判定した。

 その結果、運動をする習慣がまったくない人は、運動をしている人に比べ、アルコール依存になる割合が84~88%増加することが判明した。

 収入や地域の特性などの要素も考慮に入れても、運動不足がアルコール依存に影響することは明らかだった。

 「運動をする習慣のない人は、アルコール依存になるリスクが2倍に上昇することが分かりました。アルコールと運動習慣との関連についての調査は今回がはじめてです」と、ジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院のエイプリル ダミアン氏は言う。

運動はアルコール依存症の治療に効果的?
 飲酒をコントロールできなくなるアルコール依存症は、飲酒量が少ない高齢者や女性でも増えている。

 アルコール摂取がうつ病や不安症の発症に影響することが、過去の研究で示されている。また、運動習慣のある人ではこれらの疾患の発症が少ないことが、英国のロンドン大学などが行った大規模研究で示されている。

 WHO(世界保健機構)は、アルコールは脂肪肝や肝硬変といった肝機能障害をはじめ、高血圧、食道がんなどのがん、不整脈・心不全などの心臓病などの原因になると報告している。さらに、アルコールは脳の神経細胞を破壊し、脳の萎縮や機能障害をまねくおそれがある。

 これらの疾患の多くは、運動によって改善が可能だ。「運動にはアルコール摂取がもたらす健康障害を改善する効果もあります」とダミアン氏は言う。

 アルコール依存症の問題は、本人の健康問題だけにとどまらず、家族や周りの人を巻き込み、さらに広く社会にまで影響を及ぼす。家庭内暴力や虐待のほか、事件、事故、飲酒運転も問題となっている。

 だが、運動をする習慣をもつことがアルコール依存症の治療に効果的であるかは、今回の研究では解明されていない。

 「運動がうつ病や不安症の改善に効果的であることが分かっています。アルコール依存症のリスクのある人に対しても、運動を指導することで介入すると効果的である可能性があります。今後の研究で確かめる必要があります」と、ダミアン氏は指摘している。

Lack of exercise linked to alcohol misuse(ジョンズ ホプキンス大学 2015年11月2日)

(TERA)