ウォーキングの歩数が多いと記憶力が向上 運動が認知能力の低下を防ぐ

2015年12月08日
 運動を習慣として続けることが、認知能力の低下を防ぎ、生活の質の向上につながる――ウォーキングの歩数が多いと記憶力の低下を防げるという研究が発表された。
歩数が多いと人の顔や名前に関する記憶力が向上
 運動を習慣として続けて、体をアクティブに動かす生活スタイルをもつと、認知能力の低下を防げ、自立した生活を長引かせることができると考えられているが、運動が高齢者の認知能力にどれだけ影響するかは明らかになっていない。

 そこで、ボストン大学医学部の研究チームは18~31歳の若者29人と、55~82歳の中年・高齢者31人を対象に実験を行った。実験の参加者は腕時計型の活動量計を着用し、1日の歩数・歩行速度・歩行時間を計測し、認知能力テストを受けた。

 研究室で行われた認知能力テストは、行動を計画し管理する能力や、長期的な記憶力、短期的な記憶力を測定する内容だった。

 その結果、中年・高齢の参加者では、1日の歩数が多いほど記憶力のパフォーマンスが高いことが判明した。もっとも結果に差が出たのは、顔写真と名前を結びつける短期記憶を測るテストだった。

 こうした認知能力のテストは、高齢者が比較的苦手としている。同じテストを若者を対象に行ったところ、歩数により成績に差が出なかった。

 「今回の実験結果は、高齢者ではウォーキングなどの身体活動が記憶力に影響することを示しています。一般的に認知能力は老化に伴い低下していきます。運動習慣はアルツハイマー病のような神経変性認知症の発症リスクにも影響します」と、ボストン大学医学部のスコット ヘイズ氏(精神医学)は言う。

運動はどのような治療薬にも勝る特効薬
 運動を習慣として行うことが肥満や心臓病などの疾患を防ぐために重要であることは広く認知されているが、認知能力や認知能力にも影響することはあまり知られていない。

 「運動不足は認知能力の低下をまねくことは過去の研究でも示されています。ウォーキングの歩数が多いほど記憶力の衰えを防げるという情報は、毎日をもっとアクティブに過すための強い動機付けになります」と、ヘイズ氏は指摘する。

 毎日時間を決めて運動することが体に脳の健康に良いことを知っていても、実行するのが難しいという人も多い。そうした人でも「エレベーターではなく階段を使う」「通勤では車を使わず徒歩で」といった小さな変更が積み重ねれば、長期的には認知能力の改善につながる。

 運動習慣の影響について報告した過去に発表された論文の多くは、研究の参加者の自己申告にもとづく情報をもとにしており、客観的な測定値により判定しているものは少ない。

 「運動の強度や頻度、時間といった条件や、エアロビクス運動とレジスタンス運動の組合せなどによって、運動が脳にもたらす影響は変わります。認知能力を向上させるために、どのような運動がもっとも効果的なのかが分かれば、個別化した最適な運動プログラムを提供できるようになる可能性があります」と、ヘイズ氏は言う。

 「重要なことは、ウォーキングなどの運動習慣は、どのような治療薬にも勝る特効薬になる可能性を秘めているということです」と、ヘイズ氏は強調している。

Study Links Physical Activity to Better Memory Among Older Adults(ボストン大学 2015年11月24日)
Physical Activity Is Positively Associated with Episodic Memory in Aging(Journal of the International Neuropsychological Society 2015年11月19日)

(TERA)