ウォーキングや運動がメンタルヘルスを高める 仲間と一緒だと効果的

2015年10月23日
 50~59歳の中高年が「心の健康」を保つために、余暇時間にウォーキングなどの運動を行うと効果的で、仲間と一緒に運動をすると効果がいっそう高まるという調査結果を、筑波大学の研究チームが発表した。

 趣味・教養や運動・スポーツなどの余暇活動が中高年のメンタルヘルスに対して効果的であることが、日本人1万6,000人を対象とした調査で確かめられた。また、仲間と一緒に運動・スポーツを実施すると効果がより高まることが示された。

 この研究は、筑波大学体育系の武田文教授らの研究グループによるもので、オンライン科学誌「PLOS ONE」に発表された。

運動はメンタルヘルスを良好に維持するために効果的
 日本人の寿命は世界トップクラスだが、日常生活に支障なく過ごすことのできる健康寿命は平均寿命より10年以上短い。高齢者人口のさらなる増加にともない、健康寿命の延伸にむけた効果的な健康づくりが課題となっている。

 加齢に伴い身体能力は低下していくので、高齢期に入る前の中年期にウォーキングなどの運動を習慣として行うことが重要だ。運動はメンタルヘルスを良好に維持するためにも効果的であることが過去の研究でも確かめられている。趣味・教養や運動・スポーツ、地域活動といった余暇活動や社会活動が、メンタルヘルスに対し具体的にどう影響するかを確かめる必要がある。

 そこで研究チームは、厚生労働省が全国で実施している「中高年者縦断調査」の第1回(2005年)および第6回(2010年)に参加した1万6,642人のデータを解析し、50~59歳の中高年の余暇活動や社会活動が5年後のメンタルヘルスに及ぼす影響を調査した。

 研究チームは、メンタルヘルスを測定するスコアとして6項目で構成される「K6尺度」を採用した。K6尺度では得点が高いほどメンタルヘルスが不良であると判定される。研究では、気分障害・不安障害の検査のカットポイント(基準)を5点に設定し、5点未満を「メンタルヘルス良好」、5点以上を「メンタルヘルス不良」と判定した。

 さらに、運動などを実施していない人を1とした場合の、メンタルヘルス不良のリスクの大きさをオッズ比であらわした。オッズ比の値が1より小さく、全体の5%の誤差を取り除いて求める「95%信頼区間」が1を超えている場合にメンタルヘルスが不良であると判定した。

他者との交流がメンタルヘルスに良い効果をもたらす
 その結果、余暇時間に趣味・教養に取り組んでいた人のオッズ比は。男性で0.85(95%信頼区間 0.74~0.98)、女性で0.72(95%信頼区間 0.63~0.83)だった。また、運動・スポーツに取り組んでいた人のオッズ比は、男性で0.85(95%信頼区間 0.74~0.98)、女性で0.88(95%信頼区間 0.77-1.00)だった。

 つまり趣味・教養や運動・スポーツといった余暇活動を実施している人は、実施していない人と比べ、5年後のメンタルヘルス不良のリスクが低いことが明らかになった。一方で、地域行事、子育て支援・教育・文化、高齢者支援といった社会活動は、男女とも、5年後のメンタルヘルスとの関係がみられなかった。

 「社会的役割をもち現役で活動する人が多い50~59歳の年齢層では、社会活動に加えて趣味・教養や運動・スポーツの余暇活動を行うと、メンタルヘルスを良好に保つ上で有効であることが示されました」と、武田文教授は述べている。

 一方で、運動などを「1人で実施している」人と、「他者と実施している」人を比べた場合、男女とも他者と実施する場合のみ、5年後のメンタルヘルスと有意な関連がみられた。「他者と実施している」人のオッズ比は、男性で0.84(95%信頼区間 0.73~0.98)で、女性で0.86(95%信頼区間 0.75~0.99)だった。

 このように運動・スポーツをいつも他者と実施している人は5年後のメンタルヘルスが良好だが、こうした傾向は1人で実施している人には当てはまらないことが示された。「中高年が運動・スポーツを行うときは、他者との交流がメンタルヘルスに良い効果をもたらしています」と、武田文教授は述べている。

筑波大学体育系 武田研究室
How possibly do leisure and social activities impact mental health of middle-aged adults in Japan? : An evidence from a national longitudinal survey(PLOS ONE 2015年10月2日)
(TERA)