高齢者の転倒リスクを測るシステムを開発 トレーニングにも活用

2014年12月15日
 高齢者の転倒リスクを計測システムを、京都大学などの研究グループが開発した。「高齢者の体力測定やトレーニングに活用してほしい」と研究者は述べている。
高齢者の転倒による死亡は交通事故を上回っている
 高齢者は、転倒して骨折したり、頭部外傷をきっかけに、寝たきりの状態になることが多い。厚生労働省の人口動態統計で日本人の死因をみると、転倒・転落死は増加している。2012年は7,761人で2年で約1,500人増えており、交通事故による死亡数6,414人を上回っている。全体の85%が65歳以上、60%が80歳以上だ。

 東京消防庁の統計で、家庭内で発生した負傷のため救急車を呼んだ人のうち全体の72%「転倒」が原因だった。階段やちょっとした段差、置いてある物などでつまずくなど、高齢者にとってはさまざまな場所に転倒や転落の危険が潜んでいる。

 こうした事故を防ぐため、高齢者の転倒リスクを評価して、転倒予防の意識啓発を促す計測システムを、京都大学などの研究グループが開発した。

 この新たなシステムを開発したのは、同大医学研究科の青山朋樹准教授と、筑波大学人間総合科学研究科の山田実准教授、慶應義塾大学理工学部の高橋正樹准教授らの研究グループ。

高齢者では2つの課題を同時に処理する機能が低下している
 これまで、高齢者が転倒するのは、筋力低下やバランス機能低下などの運動機能低下が原因であると考えられていた。

 しかし、1997年の研究で「歩行中に話しかけられると立ち止まってしまう高齢者では、その後の転倒発生リスクが高まる」と報告され、これにより転倒には単純な運動機能低下だけでなく、中枢神経系の機能も含めた複雑な機能低下が関与しているという考え方が広まっている。

 さらに、2つの課題を同時に処理する機能(二重課題処理能力)の低下が転倒を引き起こす要因となっているという仮説も注目されている。

 過去の研究で、このような機能が低下している高齢者は転倒しやすいことや、適切なトレーニング(二重課題処理能力向上トレーニング)によってこれらの機能向上効果が得られることなどが明らかになった。

 そこで研究グループは、二重課題処理能力を定量的に測定するというコンセプトのもと、転倒発生リスクを評価するための機器を考案した。

高齢者の二重課題処理能力を測定
 開発したシステムは、パソコン画面上に移動する方向を示す矢印が表示されてから動きはじめるまでの反応時間、片足でぐらつかずに立っていられる時間を計るほか、パソコンに表示される矢印に応じて前後左右に足を動かし、正しく動かせたかや、反応までにかかった時間を判定する。表示される矢印と逆の方向に移動する課題も実施する。

 両課題での正答率と反応時間をもとに運動器の機能を測定する。すると、転倒リスクの評価結果のレポートがパソコンに出力されるという。

 高齢者152人を対象に行った試験では、得られた転倒リスク得点は認知機能や運動機能といった転倒リスクと相関しており、複合的に判定する指標となることが示された。

 同システムは、村田機械が製品化し、日本シューターが「STEP+」(ステップ プラス)の製品名で、12月から全国の医療・介護施設などで販売する予定だ。価格は1台98万円でレンタルでの利用も可能だという。軽量で持ち運びしやすいので、どこでも手軽に転倒危険度を測定できるという。

高齢者の転倒危険度を評価する計測システムを開発(京都大学 2014年12月9日)

(TERA)