震災前から足腰を鍛えていた人はストレスに強い

2014年05月19日
 震災時のメンタルヘルスの管理にどう備えたら良いのか。ふだんから運動をして足腰を鍛えてあると、被災後の精神的ストレスを抑えられるという調査報告が発表された。

 東北大学大学院医工学研究科の門間陽樹助教らは、仙台市内の勤労者を対象に、2011年3月11日の東日本大震災が起きる前から健康調査を実施し、震災発生前の身体状態・生活習慣が、震災発生後の精神的ストレスに影響を与えることを明らかにした。オンライン科学誌「プロスワン」に4月23日付で発表した。
災害前の身体機能の向上がメンタルヘルス悪化の予防策に
 災害は多くの人々に広範囲に打撃を与える。大規模な自然災害が発生したときの、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症は問題視されてきた。災害のメンタルヘルス研究はこれまで、災害発生後に調査が行われているのに対し、今回の研究は、災害発生前の状態が災害後のメンタルヘルスに影響することを突き止めた。

 研究グループは、2010年8月と2011年8月に健康診断を受けた仙台市の勤労者522人を対象に、東日本大震災前の状態と震災後の精神的ストレスとの関連について解析した。震災前の状態は、生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動、食習慣、睡眠時間、歯磨き習慣)や既往歴(糖尿病、高血圧、脂質異常症)について調査した。

 同時に、瞬間的に足を伸ばす力の強さ示す「脚伸展パワー」を調べた。この値が高いほど両脚の筋機能は良好で、下肢の筋機能は歩行などあらゆる身体活動と深く関わっている。さらに、震災後の精神的ストレスは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状の国際指標である「改訂版出来事インパクト尺度」(IES-R)で評価した。

 分析の結果、男性では、震災発生前に脚伸展パワーが高かった人は、震災後のPTSD症状を評価した「IES-R得点」が低く、精神的ストレスの程度が低いという関連がみられた。また、震災前に毎日酒を飲んでいたり、抑うつ状態だったりした男性は震災後のIES-R得点が高い傾向があった。女性では、震災前にうつ状態か、高血圧の場合に、IES-R得点が高いという関連が認められた。

 研究グループは、今回の研究の知見が災害時のメンタルヘルス対策の一助となるとしている。災害前の身体機能向上が災害時のメンタルヘルス悪化の予防策になる可能性があることが示されたのは世界初だという。

 永富教授は「災害の発生前に評価できる項目や修正可能な項目が災害後のPTSDに影響を与えることを明らかにすれば、災害発生前にPTSDハイリスク者を事前に把握でき、日常生活の改善・維持により災害に伴う精神的ストレスに備えることができる」と述べている。

 大震災のストレスを予防するためにも、生活習慣を改善してふだんから健康的な生活をおくり、特に男性では活発なウォーキングなどの有酸素運動、坂道や階段の上り下りなどで足腰を丈夫にしておくことが重要だ。

東北大学大学院医工学研究科健康維持増進医工学分野