アディポネクチン受容体を強める内服薬を発見 日本発の新薬の開発へ

2013年12月16日
 肥満や2型糖尿病を改善するホルモンの働きを活発にする物質を、東京大学病院の門脇孝教授(糖尿病・代謝内科)らの研究チームが発見した。科学誌「ネイチャー」電子版に10月31日付で発表した。
アディポロンが血糖値を下げ、インスリン抵抗性を改善
 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科の門脇孝教授、山内敏正講師らの研究グループは、運動ができない場合でも、肥満が土台となるメタボリックシンドロームや2型糖尿病を効果的に治療する内服薬の候補物質を、マウスを用いた実験により発見することに成功した。

 研究チームは、運動不足などから肥満になった人や、2型糖尿病の人では、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンである「アディポネクチン」が低下することを、過去の研究で突き止めていた。

 アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、インスリン感受性の亢進、動脈硬化の抑制、抗炎症の抑制などの作用がある。脂肪細胞が肥大化すると分泌量が少なくなるので、肥満から引き起こされるインスリン抵抗性に関わる因子として注目されている。

 アディポネクチンの作用を細胞内に伝える分子である「アディポネクチン受容体」の作用を強めることが新たな治療法となり、肥満や2型糖尿病の人でみられる寿命の短縮を改善させられる可能性がある。

 この点に着目した研究グループは、東大の化合物ライブラリーなどに蓄積された614万種類の化合物の中から、アディポネクチン受容体を活性化する「アディポロン(AdipoRon)」(アディポネクチン受容体活性化低分子化合物)を発見した。

 肥満や2型糖尿病のマウスを用いた実験では、アディポロンの経口投与によって、血糖値の低下やインスリン抵抗性の改善、脂肪の燃焼など、運動をした場合に近い効果があらわれることを確認した。

 アディポネクチン受容体には「AdipoR1」と「AdipoR2」がある。AdipoR1は骨格筋や肝臓などに、AdipoR2は肝臓や脂肪組織などにあり、AMPキナーゼやPPARαを活性化させ、ブドウ糖の取り込みや、脂肪の燃焼を促進し、動脈硬化などを予防する作用があるという。

 研究チームは、AdipoR1とAdipoR2が欠損し、肥満や2型糖尿病になったマウスに高脂肪食を与え続ける実験を行った。その結果、120日後には約7割のマウスが死んだのに対し、1日1回アディポロンを投与したグループのマウスの死亡率は約3割に抑えられ、アディポロンによって生存率が4割上昇することも分かった。

 2型糖尿病や肥満などを改善するために、食事療法や運動療法を実行するのが効果的だが、心筋梗塞をもっていたり、関節など運動器に障害を抱えている人では、十分な運動をするのが難しくなる。

 アディポロンは、2型糖尿病や肥満の画期的な治療法となるほか、心筋梗塞や脳梗塞、がん、アルツハイマー病などにも効果が期待されている。

 「アディポネクチン受容体を活性化する治療薬を開発することで、肥満にともなうさまざまな疾患や短命を克服し、健康長寿の実現につなげたい」と研究グループは述べている。

 また、大学発の研究からスタートしたことから、アカデミア主導の創薬として最速で開発を進めると明言。5年以内に臨床第1相試験を目指すとしている。

東京大学医学部附属病院
A small-molecule AdipoR agonist for type 2 diabetes and short life in obesity(Nature 2013年10月30日)

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